偏光の計算 - その9 [偏光のMathematicaによる計算]
セナルモン法の計算のような偏光の光学的な問題は、ジョーンズベクトルやポアンカレ球でうまくいくことがわかった。式は面倒だけど計算そのものは簡単だし、ポアンカレ球は直感的でわかりやすい。今日はそれにちょっとだけ水をさす。
現実の複屈折との関係
複屈折性の媒質の光に対する応答は一般にはテンソルで書くことができる。マクスウェルの方程式の中に組み込む場合、現象論的な式
の誘電率εが3次元の2階のテンソル(3×3のマトリクスの形) となる。なんでこんな形になるかと言えば、x方向に電場があっても媒質の異方性のせいでその応答が同じ方向に出なくなる。従ってyやzにも成分を持つようになるので、それに対応する関係、たとえばx→yやx→zの関係の記述が必要になるためである。スカラではベクトル間の直交する成分どうしの関係は表現することができない。
ただし、単色平面波だけを考え、媒質の異方軸方位と光の進行方向を決めてしまうと、進行方向に沿った成分はない(光は横波)。さらに本来観測できる光はエネルギーの流れだけなのでポインティングベクトルを考えなければいけないけど、複屈折性の媒質が平行平板で、空気から入射して空気に出る場合だけを考えると、進行方向は変化せず、単に出てくる位置が変わるだけになる。媒質内で電磁場がどうなっているかは問わず、こういう横シフト(入射方向に垂直な移動成分)も無視して単に空気中を伝播する入射電場と射出電場の関係だけをみれば、入る電場Ei
と出てきた後の電場E0 だけの関係、つまり が記述できれば十分となる。このとき比例係数Mは一般に2行2列のマトリクスとなる。これはジョーンズベクトルとその間の変換であるジョーンズマトリクスそのものである。
定性的な考察だけど、ストークスパラメータやジョーンズベクトルは現実の媒質をブラックボックスと見て、単色平面波の偏光状態を変える無限に広がった平行平板であると見なしていることになる。したがって
- 光の進行方向にそった光学特性や距離(厚み)は扱えない
- ホイヘンスが観察した2重像などは扱えない
- 媒質内での光の進行方向が問題になるような場合、例えば
- 一様でない媒質
- 境界面が平面でない場合
さらに式-33は現象論的な式、つまり複雑な物理過程を、電場による線形な分極応答という、やっぱり入力と出力だけの関係を表しているに過ぎない。従ってかならず成り立つとは限らない。たとえば、電場を強くしていくとどんな材料にも非線形性が現れる。そのときは式-33は電場の2次以上の項も考慮しなければいけない。2次まで考えたときに、式-33のεは3階のテンソルで記述されることになる。これはもうマトリクスの形では書けなくなる。僕も書いててよくわからない。
ようするにジョーンズベクトルでうまくいったからと言って、いつもうまくいくとは限らない。いつも適用範囲に注意して使うことが大切である、という話。あたりまえだけど、忘れがち。
コメント 0