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「ボーン・アナリスト - 骨を読み解く者」読了 [読書]

テッド・コズマトカ著、月岡小穂訳、ハヤカワ文庫SF。
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かんんんっっぺきな駄作前にひどいのもあったけど、これはまた別方向にひどい。「買ってはいけないSF」にまた一冊。あとは僕がなぜそう思うか、を書くことになる....

子供の頃から生き物に興味を持っていたポールはスタンフォードで遺伝学と人類学を学び、研究員としてウェスティング社で働いていた。そこにギャビンという男がインドネシアでの古人類骨の発掘に参加するよう求めてくる。ポールはその求めに応じる.....

あらすじが書けない。なぜかというとこの本がそもそも物語の体をなしていないからである。ポールの幼少期の父親とのエピソードと、この世界では進化論は否定されていて、地球が誕生したのは5,800年前だという事実、普通の人には異世界なポールの研究者としての日常、ジョハンソンという会社社長の奇妙な言動、その前の出だしには<預言者>と呼ばれる人物が追手に追い詰められて殺害されるシーンがある。そういうツカミが最初の1割ぐらいのところに詰まっていて、一体これからどうなるのか、と思って読み始めることになる。

ところがインドネシアでの発掘には政府の兵士が乱入して同僚の研究者が死に、ポールは片目を失なったあと、マッチョなスパイ物顔負けのどんぱちと素手の暴力と美女とのセックスと殺人と死体と異様な怪物が次々語られては通り過ぎていく。物語の脈絡や「起承転結」なんてものは完全に破綻して「起」のあとは「転転転転転転転転....」で最後の数ページで話を終わらせるための「結」があるだけ。もうめちゃくちゃのデタラメ。

出だしの<預言者>がジョハンソンの会社の社員であることはわかるけど、<預言者>がどういう意味なのかは最後までわからないまま。それどころか最初のツカミにあったいろいろなことはすべてまったく回収されないばかりか、途中で出てくるDNA解析のデータや食性分析やその他、もう覚えてないので書けないけど、そういう思わせぶりなもろもろはすべてほったらかしで、健忘症的に置き去られる。伏線も何もあったものではない。

たとえば、劈頭のギャビンの申し出にポールは最初拒否するが、発掘作業の写真を見て心を変える。当然それには何か理由があるのだろう、とずっと思いながら読み続けることになるけど、最後まで明らかにはならない、というかそういうエピソードのすべてはその場の雰囲気の演出のために存在して、どれも数十ページ後には忘れ去られ無視される。

そういう解決されない不協和音が読むに連れてどんどん溜まっていく一方で、スタンフォード出の研究員だったはずのポールが、同僚のIDを盗んで夜の研究室に侵入したり、屈強なボディガードたちや強靭な怪物を向こうに立ち回り、橋から落ちようが怪物に振り回されて壁に叩きつけられようが8メートルの高さの天井にぶらさがってそこから落ちようがそれで足を骨折しようが、ダメージは負うけど命を落とすことはなく、そのあとは例によって負傷したことなんか数ページほどで忘れて不死身のように走りまわったりする。もうウィリスシュワルツェネッガースタローンヴァンダムセガール顔負け。

進化論が否定され創造論に支配された世界とはどういうものか、というのが語られるのであろう、と思って読み始めたけど半分ぐらい読んで諦めた。ああ、これはそういう気はハナから無いな、と。読み終わったらあれこれ突っ込んでやろう、と思ってたんだけど、無駄。そういういろいろな設定の上にエピソードが積み重ねられるわけではなく、ようするにバナナの叩き売りの「さあ、持ってけ泥棒!」と言いながらハリセンで叩くのと同じで、ビックリさせて人を振り向かせるためだけのもの。中身も何もあったんもんじゃない。後半はもう読んでてストレス溜まるたまる。

早川書房は私企業なので本のいい悪いは売れるか売れないかだろうし、提灯持ちが絶賛するのも仕方ないとは思うんだけど、僕は若い人がこれを読んでSF小説とはこういうものか、と思ってしまうのではないかと思うと悲しい。そこで僕としては、こういうところでひっそりと

「お若いの、これに触れてはならん。お前に不幸が訪れるであろう」

と、警告する老人の役目を果たそう。映画ではそういう警告は必ず無視されることになってはいるんだけど。
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