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「へんな星たち 天体物理学が挑んだ10の恒星」読了 [読書]

鳴沢真也著、講談社ブルーバックス。
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こないだ読んだ本でストレスが溜まったので、軽い雑学読み物を、と思って買った。中身は確かに星にまつわる雑学集なんだけど、思いがけず面白かった。いや、それはこの本に対しては失礼な言い方だった、ごめんなさい....

著者は西はりま天文台の研究員の先生。こんなところに2mなんていう巨大な望遠鏡があるとは知らなかった(すばるに似た円筒型のドーム(「四角い円」みたいだな)なんでけっこう新いんだろうな)。この本は素人向けの軽口やダジャレやオヤジギャグが含まれた文章になってるけど、どことなくスベり気味なのがいかにも天文学者らしい浮世離れした感じを醸し出していて、好感が持てる。本では個性的な恒星10個を選んでそれぞれ数十ページぐらいで紹介している。

一見ランダムに取り上げているようだけど、実は周到に計画されていて、まずスペクトルとドップラーシフトの話、そのスペクトルから恒星に含まれる元素がわかる話、元素の恒星内での分布とエネルギー輸送、そしてHR図と、順番に基礎的な知識となる事実を説明している。もちろんそれらを最初に詰め込むのではなく、それぞれの恒星のエピソードに一つずつ積み重ねられる。HR図が出てくるのは全体の1/3が終わったあたり。いろいろなデータも提示されるけど、ビジーな図は一つもなく、簡単なイラストに毛が生えた程度で、シンプルに要点だけが示される。もちろんそのために削ぎ落とした詳細もいっぱいあるけど、わかりやすくなっている。

例えば、一番初めに取り上げられている牡牛座プレアデスのひとつプレオネについては、書かれていることとしてはWikipediaの「プレイオネ 性質」とほぼ同じだけど、著者自身の研究成果でもあるので、それをわかりやすくしかも面白そうに書いている。記述に圧縮感がなく、すっきりとしていてWikipediaがいかにも無味乾燥に思える。僕はこういうの全然苦手なので、すごくうまいなあ、と思う。

恒星は構成物質のほとんどが水素で複雑な分子はほとんどなく、水素の集団(気体)に作用する重力と電磁気学と量子論的な統計力学がナマで効いている場である。どの星もみんな同じになるんじゃないかと思えるのに、たった10個の恒星を見るだけでもこれだけいろいろあるというのが、なんだかすごく不思議な気がする。細かく見ると重力と放射や圧力とのバランス、統計的な揺らぎ、核融合によるエネルギー放出とそれで作られる重い元素と電磁波との相互作用の違い、基づく原理は変わらないのに、できた時の質量との違いで幾つかのパターンに分かれて、あとは角運動量(自転の速さ)や近傍の物質や星の影響なんかで、どんどん枝分かれするように多様になっていく。特に連星になるとあっという間にパラメータの数が増えていろいろな現象が現れる。やっぱりすごく不思議な気がする。

でもこの本で紹介されている現象は一見簡単そうに見えるけど、中にはかなり高度で難しい概念を含んでいる。例えばできた時の質量によってその後の経時的な変化(恒星ではなぜか進化というらしい)の仕方が違ってくるのは定性的にはなんとなくわかるけど、星の温度によって対流層と放射層が内外入れ替わるというのはよくわからない。対流と放射っておそらく分子の運動が揃っているかランダムかの違いだろうと思うんだけど、なんでそれが星の温度によって逆転するんだろう。

他にも第2章のプシビルスキ星ではイットリウムやランタン系の元素が太陽の$10^3$$10^5$倍あるという。でも恒星内で作られる元素は鉄が一番後ろ(周期律表で)だと第6章に書いてある。よその恒星の超新星爆発で鉄より後ろの元素ができて、それをその後できた恒星が取り込んだとすると太陽と構成比率が何桁も多いというのがわからない。太陽では重い元素は中心に集まっているけどプシビルスキ星では対流で表面に出てきてるということなんだろうか。また、プレオネのガス円盤からの光が偏光しているとある。「ガスの電子による散乱」と書いてあって地上で観測できる波長の光だろうから、ほとんど弾性散乱(トムソン散乱だっけ?)だろうと思うけど、どうやってマクロに偏光するんだろう。 いろいろ難しいことがたくさんある。



ただの水素ガスの集団がこんなにもいろいろある、ということからしても、僕は最近、どうも多様性こそが宇宙の存在意義だと思うようになってきた.....



この宇宙を創った神様は矛盾を嫌い論理的整合性を重要視する種類の神様らしい。宇宙のどこにも明らかに矛盾する現象は見つかっていないし(人間の理解が至らなくて矛盾しているように見えるものはあるけど)、もっと卑近な身の回りの現象や、目で見えないようなミクロな世界でもそうらしい。

そして、矛盾を嫌う神様は全能ではない。なぜなら、全能性には自己言及とセットで矛盾が現れるからである(「すべての集合の集合」とか)。矛盾を嫌い論理的整合性を重要視する神様は、あっさり全能性を捨てて顧みないはずである。「私に全能性は不要である」と。

よそには全能の神様が統べる宇宙もあるのかもしれない。そういう宇宙では複雑な物質が虚無から忽然と現れたり、あるいは妖精がうんしょうんしょと言いながら物質を運んでいるかもしれない。また、別の神様は完全にシナリオを編みすべてを作り操作するような宇宙を作っているかもしれない。あるいはものぐさな神様もいて、同じものが結晶のように延々と連続するだけの宇宙を作っているかもしれない。さらにはそもそも宇宙など作らず、全き者としてただ遍在するだけの神様もいるかもしれない。

全能ではない神様が宇宙を作ったときに非線形性という鼻薬を入れたら(そしてこの宇宙にはその鼻薬が効いているように見える)、その全能ではない神様にはその宇宙の未来を見通すことはできなくなる。初期値のわずかな違いでまったく違う経緯を経るという複雑系の法則で、そもそもそれも神様自身が作ったものである。

全能ではない神様は物理法則の枠組みを決め、ほんの数個のパラメータを注意深く微調整して、ビッグバンをスタートさせた。あとはただ見ているだけである。全能ではない神様は厳密に保存則を設定したので、最初に神様が与えたリソースだけを宇宙が使うようにしてある。それは他の神様がよけいなちゃちゃを入れられないようにするためかもしれない。

ではその全能ではない神様は何のために宇宙を創ったのか、神様の目的は何なのか、と言うとわずかな要素だけでどれだけ多様性を生み出すことができるか、という実験である。つまり未来を見通せない全能ではない神様が作った宇宙がどれだけ自分を裏切ってくれるかを見ようということで、すなわち神様が持たない全能性の代わりを宇宙自身にさせよう、ということである。でなければ神様は宇宙を作る意味はなく、超越した存在としてただ存在していればいいだけ、何もしなければいいだけである。

全能の神様がすべてを作り出し操作する宇宙では、その宇宙がどれだけ実りあるものになるかはその神様の作業で一意に決まる。神様が手を抜けばそこは存在しなくなるわけである。しかし全能ではない神様が作ったこの宇宙ではそれを宇宙自身が決めることになる。何が起こるかは神様自身も知らないのだから。

従ってこの宇宙では多様性を減らすことは神様の意図に反する行為となる。逆に多様性を増やす行為はそれ自身が善である。これまでの百数十億年間、神様の実験は大成功を収めているように見える。単純な法則から、これだけいろいろな恒星が生まれて、さらにその周りの惑星上ではエネルギーのおこぼれをもらう生物が生まれてさらに多様性を拡大している。ほかの星では生物とはまた違ったやり方で多様性を発揮しているかもしれない。生物だけが多様性を発現させることができると考えるのも、神様の意図に反していると言えるかもしれない。

そしてビッグバンから数百億年経ってほぼ宇宙全体がブラックホールと光だけになったとき、全能ではない神様は

「これって、けっこうよかったんじゃね?」

と言って次のビッグバンの準備のためにパラメータを微調整するか、あるいはまったく違う可能性を求めて次元を変えたり物理法則を変更したり、あるいは因果律を考え直したり、さらには整数の構造に手を入れるかもしれない。

この宇宙の造物主である全能ではない神様は名を「数学」という。



本とはぜんぜん関係ない、トートロジーだらけの妄想になってしまったな。
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