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「量子論はなぜわかりにくいのか」読了 - その2 [読書]

「量子論はなぜわかりにくいのか」感想文の続き。前回は本を読んでなんとなくわかった気になった部分の話を書いた。今日はよくわからないところについて。説明のためにちょっと式を書く.....

2  古典的な偏光の相関

エンタングルした光子ペアの相関をむりやり古典論で計算したらどうなるか考えてみる。この本の内容と同じことをしたかったんだけど、計算過程が書かれていないのでできない。そこでずっと前に読んで納得させてもらったこのサイトこの部分(すごくわかりやすくて読んだとき感心した)と同じことをさせてもらう。ただし古典論でスピンは扱えないので、光の偏光を考える。

下の図のように電場のベクトル$\vectorize{E}$が、
0509polarization.png
ある座標系で$\omega$の方向を向いているとする。それを向きが$\theta_a$と$\theta_b$の2つの偏光子$a$と$b$で測定するとする。ある光子が偏光子を通過する確率というのは古典論では考えられないので、そのかわりに強度の比を使う。これは物質と光との相互作用なんかを半古典的にあつかうときによくやる考え方である。

偏光子$a$を光が通過する強度の全光量に対する比$R_a$は \begin{equation} R_a = \cos^2 (\omega - \theta_a) \nonumber \end{equation} である。同様に \begin{equation} R_b = \cos^2 (\omega - \theta_b) \nonumber \end{equation} である。これを通過する確率と見なそう。

ある光子ペアがそれぞれ偏光子$a$と偏光子$b$に入射するところを考える。ここでは
理由不明のメカニズムによってふたつの光子の偏光はそろっているが、どの向きになるかはランダムだ
とする。方法はどうであれここでは「古典的」な方法であることが重要である。

偏光子の両方を通過する確率は$R_aR_b$とかなので、偏光子$a$と偏光子$b$で一致する確率$p_+$は \begin{align} p_+ &= R_aR_b+(1-R_a)(1-R_b) \nonumber \\ &= \frac{1}{4}\big(2+\cos 2(\theta_a-\theta_b)+\cos 2(\theta_a+\theta_b-2\omega)\big) \nonumber \end{align} で、異なる確率$p_-$は \begin{align} p_- &= R_a(1-R_b)+(1-R_a)R_b \nonumber \\ &= \frac{1}{4}\big(2-\cos 2(\theta_a-\theta_b)-\cos 2(\theta_a+\theta_b-2\omega)\big) \nonumber \end{align} である。足し算してみればわかるように \begin{equation} p_+ + p_- \equiv 1 \nonumber \end{equation} なので確率とみなせる。

式を見れば$\theta_a=\theta_b=\omega$のときに$p_+=1$と$p_-=0$になって、例えば$\theta_a=\omega=\theta_b-\pi/2$のとかであれば$p_+=0$と$p_-=1$になるが、それ以外では中途半端な値になる(このことが実は量子論との違いで重要である)。

そして得点を与える。ある光子ペアを$\theta_a$と$\theta_b$の偏光子で観測する。透過しようがしまいが、$a$と$b$で一致したとき1で違ったとき-1とする。これを複数回繰り返してこの得点の期待値を求める。

入射光子の偏光の方向はランダムと仮定したので$\omega$で積分することで複数回測定した確率とすることができる。したがって期待値$\langle ab \rangle $は \begin{equation} \langle ab \rangle = 1 \times \frac{1}{\pi}\int_0^\pi\!\!\!d\omega \;p_+ + (-1) \times \frac{1}{\pi}\int_0^\pi\!\!\!d\omega \;p_- \nonumber \end{equation} としていい。これは \begin{align} \langle ab \rangle &= \frac{1}{4}\big(2+\cos 2(\theta_a-\theta_b) \big)-\frac{1}{4}\big(2-\cos 2(\theta_a-\theta_b) \big) \nonumber \\ &= \frac{1}{2}\cos 2(\theta_a-\theta_b) \nonumber \end{align} となる。

これでCHSH不等式(ログインシェルを変更しそうになってしまう)に代入できるように偏光子をふた組の$a$、$a'$、$b$、$b'$に増やす。そして例の量 \begin{equation} S = \langle ab \rangle +\langle a'b \rangle -\langle ab' \rangle +\langle a'b' \rangle \nonumber \end{equation} を計算する(符号が本と違ってるけどサイトにならった。単に名前の付け替えで、同じことである)。

さらにここで同様にサイトにならって、期待値は角度の差だけに依存するので \begin{align} A &= \theta_a - \theta_b \nonumber \\ B &= \theta_{a'} - \theta_b \nonumber \\ C &= \theta_a - \theta_{b'} \nonumber \\ D &= \theta_{a'} - \theta_{b'} \nonumber \end{align} とすると \begin{equation} S = \frac{1}{2} \Big( -\cos 2A -\cos 2B +\cos 2(A-B+D) - \cos 2D \Big) \nonumber \end{equation} となる(この後半の$S$の式と見比べて欲しい)。同じように極値では \begin{equation} \sin A = \sin D = -\sin B \nonumber \end{equation} で \begin{equation} \sin 2A = \sin 6A \nonumber \end{equation} である(角度は倍で効いているので参照サイトのスピンの結果とちょっと違っている)。したがって極値は$A=0,\pi/8,3\pi/8$などにあるということになる。そうすると係数$1/2$のせいで \begin{equation} -\sqrt{2} \le S \le \sqrt{2} \nonumber \end{equation} となって、2にさえ全然届かなくて、偏光の古典論ではこれが限界、ということになる。あってるかな。

まあ、定性的な結論としては正しくて、この場合古典的に光子ペアを作った、すなわち不明のメカニズムで偏光は最初から決まっているとしたところが量子論的な光子ペアとの違いである。その「不明のメカニズム」が「隠れた変数」となって制限を与えているわけである。

めんどくさい計算をやってきたけど、これはもっと一般的な形でここの中頃で$\pm 2$の範囲にしかないことが証明されている。また「量子論はなぜわかりにくいのか」の本文では、ベン図という非常に直感的な方法を使って説明している。では、僕はなんのためにダラダラ計算してきたかと言うと、具体的にどこで違ったか、というのを言いたかったからである。

式の上では$p_+$や$p_-$が光子の偏光の向き$\omega$に依存する項が一つだけあって、ランダムだと仮定して期待値を計算したときの積分でその項の寄与は0になってしまう。するとそもそも期待値は$\pm 1$よりもずっと狭い範囲にしか落ちない、というところが量子論との違いになる(ちゃんと式を追ったわけではないけど量子論的な計算では$\pm 1$になるらしい)。このなかほどにさらっと「一方の観測で上向きの結果が出て、他方の観測でそれとは$\theta$だけ角度をずらして測定した時にもやはり上向きという結果が出る確率は$\sin^2(\theta/2)$なのだった」というほんとに最初のところが(こっちはスピンの話だけど)決定的に違っているわけである。

一方、$\omega$が$\theta_a$や$\theta_b$にちょっとでもなんらかの形で依存すると仮定すると、積分は0にならなくなってもっと大きな極値になる。ちょっと考えると全然おかしな話だけど、実験結果はまるでそうなっているようかのに見える。なんども参照しているサイトのスピンが観察される確率はまさしくそう言う仮定をした場合と同じになっている。

しかしそれがひと組の光子ペアでそういう実験結果があるわけではなく、たくさんのペアにそんな相関がある、という結果でしかない。そこも僕の理解をよけい難しくする。それに$S$という、期待値の足し算引き算にどんな物理的な意味があって何を表しているのかもよくわからない。

不明のメカニズムとして例えば、光源の出力を十分落としてある時間内には光子がひとつしか出ないようにして、それをまず初期偏光を決める偏光子に通す。出てきた光子を一つ目はミラーで偏光子$a$に入れて次のをミラーで切り替えて偏光子$b$に入れて、そのあと初期偏光を決める偏光子をガラガラと回転させてそれを繰り返す。こうすると量子論的な過程を経ずに光子ペア(タイムラグはあるけど)を作ることができる。いや、でもこれでは最初の偏光子から光子が出てきたかどうか確認する必要があるな。でもなにかできるだろう。

面倒だけどこいう古典的なやりかたと、例えば光パラメトリック過程でできた二つの光子ペアとでは$S$と同じ計算をした期待値の和はちょうど倍の値になる、ということになる。

実に不思議だ。たとえば偏光は最初から決まっているという仮定をしないで古典論と量子論のこの違いを説明できるんだろうか。そういう意味ではなくて、僕が勘違いしてるんだろうか。もう一度書くけどこの本にあった

量子論でベルの限界が破られるのは、現実に起きない過程に確率を割り当てようとした結果、見かけの上で確率の正値性が成り立たないから

という言葉が魚の小骨のように喉に引っかかって取れない。著者も具体的にここが見かけの負確率だ、と指摘していない。でも、わざわざベン図を使って不等式を説明したのは、このどこかに負の面積が含まれているからだ、ということを著者は言いたいからではないのか。

それと、僕には「遠隔作用」「非局所性」の区別がよく理解できない。相互作用のある複数の系に外乱がない場合(コヒーレンシを保っている場合)に、それぞれの系がお互いの光円錐の外に出ても系の間にはなんらかの相関がある、と言う意味なら理解できるけど(でもそれならわざわざ難しい言葉を当てる必要は全然ない)、量子力学には遠隔作用のようなものがあってそれが「もつれ」だというのなら僕にはぜんぜん理解できない。いろいろ説明してくれているサイトを見てもすぐ「アリス」や「ボブ」が現れて僕にはかえってわからなくなってしまう(普通の人はなんでも擬人化すればパッとわかるようになるんだろうか)。

もちろん実験事実は正しくて「もつれ」の現象では「ベルの不等式」が破れていることは理解している。そしてそれが実験結果からはまるで測定された瞬間(偏光子に到達した瞬間)にその偏光が確定するような確率分布になっている、というのも理解している(さっきの古典的な偏光との比較で僕はそう理解してるんだけど)。でもそれは何か「そう見えるだけ」なのではないか、という気持ちがしている。もちろんそれが「隠された変数」のためではないことは十分わかる。だから「そう見えるだけ」と言っても「何が」そう見えているのか指摘できない。

著者はこの本の中で「非局所的」ということばをたぶん一度も肯定的に使ってはいない。著者は正確には述べていないし断言もしていないけど、「非局所性」のように見える現象はみかけのものだ、と言いたいように僕には読めてしまった。

でも僕はまだそれをちゃんと咀嚼できない。長々と書いてきて(MathJaxが簡単で綺麗なのでついいっぱい書いてしまう)結局、「僕は混乱してる」と書けば1行で終わったかもしれない。

もうすこし勉強する必要がある。

3  最後に

この本の第8章はまとめになっている。場の量子論の「場」はリアルな実在の「場」であって、それは古典的な電磁場や特殊相対論を認めるなら直感的に理解可能である。そしていわゆる「量子力学」はその近似である。つまり「量子力学」は「場の量子論」のある断面を切り出したもので、そんな近似理論を原理とみなすから混乱が起きる。「場の量子論」による描像であれば直感に訴えることができる、というのが著者の主張であろう。

ただしその「場の量子論」もまだ建設途中の未完成で、やるべきことが残されている。「場の量子論」はあまりに計算が難しくて具体的な数値を示すためには膨大な計算をしないといけない。その近似としてこの本であげているのが「格子理論」というものである。

この本を持っている人は189ページの図8-1を見てもらいたい。僕はこれを見て「FDTDYee格子じゃん」と思ってしまった。なるほどなあ、見た目は完全に電磁場を計算するときのイメージだ、と思った。もしこれが「場の量子論」の近似であるなら計算量は膨大かもしれないけど、僕でも理解可能かな、とも思った。

そして、この本では最後の最後に

量子論を真に理解しようと思うならば、場の量子論を勉強する必要がある。場の量子論に触れずに量子論の不思議さについて語っている著作には、あまり信を置かない方が良いかもしれない。

と言う言葉で終わっている。

僕がつい最近読んだばかりのこの本あの本は、著者の吉田さんに言わせれば「信を置かない方がいい」本だと言うことになる。

痛快である。あまりにあっけらかんと書いてるので、読む人によるかもしれないけど。
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