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ガウシアンビームの光学 - その16 [ガウシアンビーム]

ガウシアンビームの続き。これまで「Helmholtzの方程式」「平面波解」「近軸波動方程式への近似」「軸対称方程式」「解の仮定」「解の具体的な定式化」「ビームのエネルギー」「積分定数$z_R$の物理的な意味」「$z_R$の限界」「放物面波解」「Gouy位相」「非軸対称解」「さらに高次の解」「Fourier変換による解の表現」「Fraunhofer回折」とやってきた。

これまでは物理と数学の話が多かったけど、今日からは光学の問題として扱う。普通の教科書ではこの辺りでガウシアンビームの話は終わるけど、僕はどっちかというとこれからが本題....

6  光学屋の関心事 ガウシアンビームの光学素子による伝播

ガウシアンビームを扱う光学屋は大きく分けて2種類いることになる。レーザキャビティそのものや外部共振器などのレーザの発生に関わる光学屋と、レーザから出たあとの光の利用にかかわる光学屋である。光学屋としてのレベルは別にして人数としては後者の方がずっと多いはずである。何を隠そう僕も後者の一人である。

どこが違うかと言うと、前者は発振をいかに安定にするか、損失をどう制御するか、なんかに集中して、つまりガウシアンビームを保つことが仕事になるが、後者はいろいろなアプリケーションに対してどう変形させるか、具体的に言えば特定の位置に決まったウェストを持ってくるとか、強度分布をガウシアンからフラット(Top-hatと呼ぶ人がある)にするとか、ということが主眼になる。

これまではガウシアンビームの導出とその物理的な性質を調べることに注目してきたけど、これからは光学系を使ってガウシアンビームを扱うにはどうするか、を考えることにする。

そう言う話に入る前に、直感を養うために、ある波長で特定の$z_R$に対するガウシアンビームの特徴量の具体的な値をまとめておこう。

6.1  具体的な数値のまとめ

まずウェスト半径$w_0$と広がり角$\theta$がどうなるか、を計算してみる。

下の図に波長が1024nmと532nmの場合に、横軸に$z_R$をとって縦軸に$w_0$と$\theta$の値を示した。
0723values.png
$w_0$と$\theta$は \begin{align} w_0 &= \sqrt{\frac{2z_R}{k}} \nonumber \\ \theta &= \sqrt{\frac{2}{z_R k}} \nonumber \end{align} で、どちらも$z_R$に対して平方根に比例あるいは反比例するので、log-logプロットすると直線になる。選んだ波長に特別な意味はない。二つの波長が欲しかったのとあまり近いとグラフが読みにくいので選んだだけである。

さらに単位を選んで$z_R=1$とすれば$w_0$と$\theta$の値は一致する。

たとえば$z_R=1$mmにした場合を表-1に示す。
表-1: $z_R=1$mmの場合
波長 $w_0$($\mu$m)、$\theta$(mrad)
1064nm 18.4
532nm 13.0

さらに$z_R=10$にした場合を表-2に示す。$z_R$が$w_0$は分母に、$\theta$では分子に来ているのでお互いちょうど一桁開いて
表-2: $z_R=10$mmの場合
波長 $w_0$($\mu$m)$\theta$(mrad)
1064nm 58.2 5.82
532nm 41.1 4.11

となる。こういうときのオーダぐらいは覚えておくと、おかしな値を見つけやすい。おおよそ可視光では$z_R=1$mmの場合10$\mu$m、10mradの桁で、$z_R$の桁が変わるたびに$\sqrt{10}$倍、$\sqrt{10}$分の1になると覚えておけば直感が養われて便利である。まあ、普通の人には全く役に立たない直感だけど。

広がり角の議論のとき、Rayleigh領域を平行光である領域だと見なす、という考え方を紹介した。これに従えば532nmのレーザビームを20m先まで飛ばしたい、というとき、$z_R=10000$mmなのでウエスト半径は1.8mm($z_R=1$mmのときの百倍。直径で3.6mm)になる。これより細いビームでは20m先ではかえって広がってしまう、ということになる。このへんの具体的な計算は次にやることにする。

もちろん、これは波長によるので、細いビームを遠くまで飛ばしたい人は、たとえばX線レーザの検討などを考えてみていただきたい。そして、物理学をなんとかしろ、というような御無体な要求はやめていただきたいものである。
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