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ガウシアンビームの光学 - その21 [ガウシアンビーム]

ガウシアンビームのお話の続き。今日からの何回か、長いこと続けてきたガウシアンビームの話のさわり、僕が一番書きたかったことをやる。

これまで「その1」から「その15」まででガウシアンビームをまとめた。そのあと光学に固有の問題のために代表的な数値の確認近軸理論をおさらいして、瞳から出たガウシアンビームがウェストを迎える様子$z$、 $z_R$とは別のパラメータガウシアンビームの場の特定法を考えた。今日からガウシアンビームを近軸理論と絡ませる....

6.3.1  レンズとの関係

これまでの議論でウェストでない位置でのビーム半径$w(z)$とそこでの波面の曲率$\chi(z)$を指定することはRayleigh距離$z_R$あるいはウェスト半径$w_0$とそこからの距離$z$を指定することと等価で、それによって伝播途中のガウシアンビームが特定できる(振幅の大きさを除いて)ということがわかった。

また、光学の話に入る枕でやった近軸理論でAbbeの不変量を使って導いたように、球面の媒質境界は波面の曲率を変換するとみなすことができる。つまり次の図(媒質境界、あるいは薄肉レンズによるガウシアンビームの変換
0825thinlens.png
のように、境界にはいるところでの波面の曲率$\chi_0$が媒質境界によって$\chi_1$に変換される。これはほぼ平行光(小さな$\chi$の値)であればガウシアンビームであろうがなんであろうが同じである。

媒質境界のかわりに薄肉レンズでも全く同じである。そして近軸領域においては境界面は平面とみなすことができるので、ガウシアンビームのもう一つのパラメータであるビーム半径$w(z)$は境界面を通過することでは変わらない。

さらに近軸理論によれば次の図(レンズ系によるガウシアンビームの変換
0825lenssystem.png
のように、複数のレンズで構成されたレンズ系であっても入射側(物体側)主平面での波面の曲率は射出側(像側)主平面での曲率に変換されるとみなしてよい。これまで漠然と「瞳」と言ってきたけど、ガウシアンビームの変換に関してはレンズ系の主平面のことである、ということになる(ちなみに本来の厳密な意味での「瞳」は絞りの像であって、一般的には主平面とは一致しない)。

つまりレンズ、あるいはレンズ系によってガウシアンビームのビーム半径$w(z)$は変化せず、その波面の曲率$\chi$を変えることができる。そしてこれまでの計算によれば、波面の曲率とビーム半径が決まればそのビームがどう伝播するかは確定することができる。ガウシアンビームと無収差光学系との関係はこれですべてであり、現実のレンズ系には
  • 収差
  • 絞りによるケラれ
を摂動として考慮すればいい、ということになる。この二つの摂動に対しては最後に議論することにする。

実際の摂動としてはさらに
  • 有限の波長幅
  • 高次モードの重畳
がありえる。これらの摂動に対して、収差とケラれはそれぞれ取り上げて、残りを含めて摂動としてまとめて測定のところで最後に議論するつもりである。

6.4  近軸マトリクスを使う方法について

これまでの議論で無収差レンズを使ってガウシアンビームを伝播するための数学は十分である。

実はもっと一般的にできる方法があって、それは近軸マトリクスを使う。リングジャイロなんかを設計する人がそれを使って計算しているのをときどきみかける。光学素子を通過したガウシアンビームがどう言うパラメータに変換されるか、というのを2行2列のマトリクスの掛け算として書けるので計算には便利である。具体的にはググってもらえればたくさんヒットする。たいてい英語だけど。

計算はガウシアンビームの解特有の$g(z)$を使う(そのものではないけど)。これが決まればガウシアンビームは決まる、ということになるからである。近軸マトリクスの要素は実の量だけど、$g(z)$の方は複素数としてそのまま計算してしまう。その点は非常に面白い。

ただしひとつ問題がある。あとで言及する。

6.4.1  近軸光線追跡を思い出す

まず、ずっと昔やった近軸光線追跡を思い出そう。

次の図のように光軸にそって媒質が並んでいるところを考える。媒質の境界面は球面で、その曲率半径が$R_i$でありかつ、光軸とは垂直に交わっているとする。
0825paraxmatrix.png
近軸光線を$\vectorize{g}_j$で表す。添え字に$j$を使うのは、これまでの近軸マトリクスの扱いでは出てこなかった虚数単位$i$が出てくるので、それと混同しないためである。 \begin{equation} \vectorize{g}_j = (h_j,\nu_j) \end{equation} で、つまり光軸からの高さ$h_j$と光軸となす角度$\nu_j$で光線を表す。 ただし、近軸の範囲なので \begin{align} h_j &\ll \min_k R_k \\ \nu_j &\approx 0 \hspace{3mm}(\sin \nu_i \approx \nu_i\mbox{とみなせるという意味で}) \end{align} であるとする。

この光線に対して、近軸マトリクス$\vectorize{M}$ \begin{equation} \vectorize{M}= \left( \begin{array}{cc} A & C \\ B &D \end{array} \right) \end{equation} を使って、 \begin{equation} \vectorize{g}_{j+1} = \vectorize{g}_j \vectorize{M} \end{equation} などとすると$\vectorize{M}$で表された光学要素を通過した後の近軸光線が計算できるというものである。近軸マトリクスは媒質の境界面を表す$\vectorize{P}_i$ \begin{align} \vectorize{P}_j &=\left ( \begin{array}{cc} 1 & -\phi_j \\ 0 & 1 \end{array} \right) \\ \phi_j &= \frac{n_j - n_{j-1}}{R_j} \\ &= \left(n_j-n_{j-1}\right)\Phi_j \hspace{3mm}(\Phi_j\mbox{は曲率} \equiv 1/R_j) \end{align} と、均一な媒質を通過することを表す$\vectorize{T}_j$ \begin{align} \vectorize{T}_j &=\left ( \begin{array}{cc} 1 & 0 \\ \ell_j & 1 \end{array} \right) \\ \ell_j &= \frac{d_j}{n_j} \label{converteddistance} \end{align} の任意の積 \begin{equation} \vectorize{M} = \vectorize{T}_0 \vectorize{P}_1 \vectorize{T}_1 \cdots \vectorize{T}_{k-1} \vectorize{P}_k \vectorize{T}_k \end{equation} からなる。ここで$R_j$は境界面の曲率半径、$d_j$は媒質の厚さである。$R_j$や$d_j$は実距離(光路長などではない)で測る。また$\phi_j$を屈折力、$\ell_j$を換算距離と呼ぶ。

以上は昔やったことの復習。

一つ注意しておくと、これは僕のスタイルで、マトリクスの積の順序が普通の光線追跡で光線の進む方向(左から右)と一致するようになっている。3次元グラフィクスに使われる射影変換ではよく見られる書き方で、このほうが直感的だと僕は思う(LaTeXでは横ベクトルの方が書きやすいし)んだけど、普通は縦ベクトルと転置したマトリクスが使われる。

ちなみにマトリクスの要素の$A$、$B$、$C$、$D$は他所でやられている近軸マトリクスの要素の名前とと同じになるように内部で転置してあるので、これも注意のこと。

どちらにしても単なる見かけの問題であって、数学的には等価である。
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