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6/20アムラン ピアノリサイタル [クラシック]

ここ数週間仕事が煮詰まってて悶々としてるんだけど、今夜は女房と二人で雨の中、銀座まで行った。アムランは僕がナマを聴いてみたい、とずっと思っていたピアニスト。
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充実しててめちゃ面白かった....

座ったのは300席ちょっとの小さめのホールの2階席の後ろの方だった。歌舞伎の一幕席みたいにステージが奈落の底のように見える。でもその席からだとアムランが現れて座るとその頭頂部のハゲ具合と一緒に、鍵盤上の両手とペダルに乗せた両方のつま先がちょうど見えた。なかなかめったにない。

1曲めはハイドンの2楽章の幻想曲風のソナタ。第1楽章はゆっくりとした変奏曲で第2楽章は2拍子系の舞曲風。ハイドンにそんな低い音なんか出てこないだろ、と気になるくらい鍵盤をいっぱいに使う。それとすごく極端に音色を変えるのに違和感を感じた。ひょっとすると起こしたピアノのフタ(反射板)がほぼ直線に見えるような席で、高周波成分がそのまま届いて音色の差が大きくつくように聴こえたのかもしれない。そのうち慣れるだろうか、と思っているうちにハイドンは終わってしまった。

そのつぎはフェインベルクという作曲家のソナタ2曲。どっちも単一楽章なのかアタッカで連続するのか、ずっと音が鳴り続けて、おそらく楽譜は音符で真っ黒で、スクリャービンみたいに非和声音がいっぱい出てくるけどちゃんと解決されて調性は頑として逸脱しない、というような感じの曲。こういう曲って中に含まれる非和声音の処理を間違うとミスタッチみたいに聴こえてしまうんだけど、そういう怪しげなところが一切なかった。驚くべきテクニック。

その次はおなじみベートーヴェンの「熱情」ソナタ。ベートーヴェンのピアノソナタは番号が後ろに行くほど大きなダイナミクスを要求しているようで、ピアノでは無理がある、というような表現が含まれているように思える。このソナタもそういう部分があって、ピアニストによってはフォルテシモでの空振り感というか、盛り上がりの頂点なのにそこにたどり着けないという印象の演奏を聴くことがある。

大げさにいえば、アムランは巨大な音量と高い制御性とでその問題を克服した、という感じだった。ああ、ベートーヴェンはこういう演奏効果を狙ってこういう音にしたのか、とわかるような気がするところが随所にあった。

後半はシューマンの幻想曲。シューマンの大規模なピアノ曲ってなんだか偉そうな曲が多くて、僕はあんまり好きではないんだけど、このアムランは素晴らしかった。この人のベースラインはわかりやすい。シューマンの和音の連続するメロディをいかにもカッコよく弾くピアニストは色々聴いたけど、明快なベースラインで説得力を増す人を僕はあまり知らない。音響的なテクニックの勝利という感じがする。ピアニシモの深い和音も音響的に美しい。

何が最低と言って、また例のバカが現れた。シューマンの最後のピアニシモの和音を鳴らして、アムランがまだ手を鍵盤から離していないのに、2階席下手の前の方から手を叩くバカがいた。どうもこの手のバカはこんな小さなホールにでも出没するらしい。コンサートで隣の席のやつがこういうバカだった場合、その両側の人はそいつを一発ずつ殴るべし、というルールでも作らないといけない。そうでもしないと、最後の最後に曲をぶち壊された憤懣は解消されないし、バカの数も減っていかないのではないか。

アンコールはまず、ヒナステラがタランテラを書きました、とでもいうような曲(本人がトッカータなんとかとか言ったように聴こえたけどよくわからなかった)。長2度の衝突が頻出する素早い曲で、アムランはすごいテクニックでバキバキ弾き通した。そのあとドビュッシーが2曲とシューマンの小品。ドビュッシーは先にやった映像の曲(曲名忘れた)のほうがよかった。そのあとの前奏曲だったかの曲(やっぱり曲名忘れた)はまたテクニックバキバキで、さすがに耳に優しくなかった。

そういえばアムランはアンコールを含めて全曲を暗譜で弾いていた。この一晩でいったい何万個の音符があったのかわからないけど、全部が頭の中に入ってるんだな。人間の記憶ってすごいな。

それはいいとして、とにかくこの人は和音のアタックが非常に美しい。フォルテシモもピアノシモもカチっと位相が揃っていてそのあと伸ばした音がモヤモヤすることがない。ピアノから音響を生み出す職人としては最高の部類に入ると僕は思う。

曲の運びはあまり凝ったことや突拍子も無いことはせずに、素直に自然体で向かっているという印象を持った。しかし逆にいえば何も考えてない、深みがない、と言えるような気もする。例えば今夜のベートーヴェンの演奏を、効果に偏って皮相的だったと感じた人もいたんではないだろうか。ちなみに僕は中途半端なのよりは今夜のアムランの方がずっと好き。

一晩たって演奏を思い返してみると、たっぷり聴いたと言う充実感はあるんだけど、そのテクニックと音響の美しさとのバランスから言うと、もうちょっと、ほら何か、他にこう、あるだろ、みたいな気がしないでもない。
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