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静電チェッカーを作る(ダイソーで素材調達して) [日常のあれやこれや]

こないだから仕事のデモのために半導体レーザのドライバを半田付けしてた。ローパワーの赤レーザがバタバタ死ぬ。ローパワーの半導体レーザは一瞬の過電流で死ぬので回路構成はそれなりに考えて、メカリレーと(そのチャッタを避けるための)フォトMOSリレーの2段階でシャントして、出来るだけ帯域をとりならオーバーシュートを減らした定電流源をD/Aで制御して、ソフトウェアもフェイルセーフに書いた。要するにいろいろ対策したのに、でもやっぱり死ぬ。

先週、回路に電源が入っていないのに、基板を触ってるうちに死んでたことがあって、これは回路のせいではなくて、静電気で死んでるんではないか、と疑いだした。作業テーブルはアースしてあって僕自身もアースバンドをしてるんだけど、歩いてきてテーブルにつながったアースバンドを取ろうとすると静電気がぱち、っと来る。同じオフィスで仕事をしている営業の連中も冬になるとドアノブを触って来たの来ないのと言ってるので僕だけではないらしい。

そもそも作業場にしてる部屋はそのために整備したわけではなく、ごく普通の事務オフィスなので、静電対策は後付けになっている。これはマジメにやらないといかんな、と思ったんだけど、部屋の電源アースも怪しいし、静電電位計もない。とりあえずどこで帯電してるのか知りたい。どうすればいいか。

最終的にはちゃんとした電位計を買うしかないんだけど、とりあえずGo/NGがサクっとわかるぐらいの「Poor man's electrostatic checker」を作りたい。そんなことを考えながらネットを見てると面白いものを見つけた....

見たのはこんな動画(クリックするとYouTubeにジャンプ)
0211movie.jpg
中の球が静電気で素早く行ったり来たりする。なんでこうなるのか最初は不思議だった。Franklin BellsLightning chimesなどでググると説明してくれてるところがいっぱいあって定性的には理解できた。簡単に言えば、コンデンサの両極の間を導電体が静電力によって往復しながら電荷を運んでいるのを見ているということになる。そう考えるとなんとなく中に入った黒い球が健気(けなげ)に思えてくる。

Franklin Bellsのもとの形では往復するのが金属の小さな舌(ぜつ)だけど、この動画の人が偉いのは軽いものにすれば僅かな電位差の静電力でも動き出すということに気がついたところ。スチールウールやアルミ箔をゆるく丸めたものなんかが思い浮かぶんだけど、この人は発泡スチロールの小さな球に導電インクを塗ったものを使った。賢い。それに金属の塊であってもどうせ電荷は表面にしかなくて、電荷の量は(全体の大きさを決めてしまえば)ざっくり電位差で決まってしまう。つまり電気的には舌の表面以外は何が詰まっていても同じ、ということになる。

2枚の平行な電極の間の静電力$F$は \begin{equation} F = \frac{1}{2}\frac{\epsilon_0 S V^2}{d^2} \end{equation} である(だよな。知らんけど)。ここで$S$は電極の面積で$V$は電位差、$d$は電極間の距離で、$\epsilon_0$は誘電率である。立方体の対向する面を電極にしたとすると$S/d^2 = 1$だからその場合だいたい電位差の2乗の誘電率倍が力になる。MKSAだと真空の誘電率の値はだいたい$10^{-11}$ぐらいで、静電気で1kVぐらいの電位差があるとすると力は$10^{-5}$Nのオーダで、直径5mmの発泡スチロール球は比重を0.02として1mgになるので、つまりそういったオーダのディメンジョンなら、具体的に言えば5mmの球を5mm$+\alpha$角で長さ10mmの筒の中に入れて長手方向両端に電極をつけて1kVの電圧をかければFranklin Bellsが動く、ということになる。

またこのディメンジョンでは1kVは検出できるけど、100Vは難しい、ということにもなる。電圧の2乗で効くので厳しい。アースバンドをとるときにぱちっとくるのでそのときの静電気は1kVは十分超えてるだろう。でもレーザはもっと低い電圧でも十分死ぬ(厳密には電圧ではなく過電流で死ぬ)ので、これでは全然足りない可能性は高い。

しかしまあ、この現象というか動きが面白くて、レーザ頓死はとりあえずおいといて、僕も真似をしようと思った。でも高価な部品を使うのはつまらないので、近所の百円ショップ、ダイソーで漁ることにした。今の会社に来てからは百円ショップにたびたびお世話になっている。

まず発泡スチロール球

これはクッション用があるというのを知っていた。実際に探してみるとこんなの
0211styroball.jpg
があって、直径が6.5mmだという。ちょうどいい。多くても数十個あればいいんだけど、1個1mgとして税抜き百円で6万個もある。そんなにたくさんどうするよ。

導電塗料

動画の人はこれに導電塗料を塗っていたけど、電極に接触した時に電荷が移動して同電位になればいいだけなので、少々抵抗が高くてもかまわない。そこで
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墨汁である。最近は中身が炭じゃなくて有機物のがあると聞いたので選ばないといけないけど、これは食べ物じゃないので原材料表示はなくてわからない。匂いを嗅げばわかるんだけど、包装を開けるわけにもいかないので「SUMI」という表示を信じてそのまま買って帰って調べる(とりあえず匂いを嗅ぐ)ことにする。

絶縁性透明パイプ

動画の人は両端の電極の間にアクリルパイプみたいなのを使っていた。パイプでは切るのもめんどくさいし、10cmだけ下さい、というわけにもいかないので、絶縁性で透明で丸めることができて簡単に切れるものを探した。そこで
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ポリスチレン板。ビニールではふにゃふにゃでポリプロでもコシがなくてポリスチレンはちょうどいいような気がした。厚みは探すと何種類かあった。$\phi$10mmぐらいに丸めようとすると$t=0.1$mmぐらいでないと難しいことを色々触って理解したけど、そんな薄いのはなかった。とりあえず0.3mmと0.2mmが一緒に入ったパッケージを買うことにする。

両端電極

一番問題の電極。動画の人は1ユーロ硬貨を使ってた(多分そうだよな)けど、百円玉よりちょっと大きいので、かわりに五百円玉を使ったりすると材料費だけでひとつ千円を超える、ということになってしまう。広いダイソーの店内をグルグル回って探すと、まさにぴったりのものが最初に見たスチロール球のとなりにあった。
0211buttons.jpg
これはなにかというと、布でボタンを作るときの骨格にするようなもので、くるみボタンというらしい。パッケージ中には「パーツA」と「パーツB」がある。くすんだアルミ色の、純アルミより硬くて粘りがある合金に見えるけど、僕にはその知識がないのでなんなのかはよくわからない。でもみるからに金属で($\omega_p$が可視より短波長)薄くて丸くて、しかも売り場では大きさが4種類あって、さらに百円で20個前後も入っている。コインよりもずっと安い。すばらしい。上の写真のふたつを含めて4種類全部買って帰ってきた。

製作準備

墨汁は開けるとちゃんと墨の匂いがしたのでOK(紙に塗って乾かしてテスターで抵抗を測ると1cmほどの距離で1kΩぐらいだった。まさしくカーボン抵抗)。で、作業。まずスチロール球を墨汁に浸して乾かす。
0211drying.jpg
もうちょっと賢いやり方がありそうだと思われそうだけどまあいい。

組み立て

さてこれであとは組み立て。色々試してみて接着剤を使わずに済ます解にたどり着いたのでそれをご披露する。

1組のボタンパーツを用意する。
0214abparts.jpg
左が「パーツA」で右が「パーツB」。これは一番大きな直径38mmのもの。まずこの「パーツA」の方にアルミ箔を丸めたものを詰める
0214alfoil.jpg
アルミ箔は構造上、パーツ間の導電性を確保するために必要になる。

これに「パーツB」でフタをする。このとき「パーツB」を正規の向きではなく、「裏返し」ではめ込む。
0214bcap.jpg
ここんところは結構ミソ。同じものをもうひとつ作っておく。

次にポリスチ板を短冊に切る。薄いのはハサミで簡単に切れるけど、平行に切らないとあとで面倒になる。
0214polistrip.jpg
これを、詰め物をしていない「パーツA」の土手の内周に沿って入れて、ちょうど一周のところに印をつけて、そこで切る。
0214polimeasure.jpg
長すぎるよりは短い目の方がいい。0.2mm厚のポリプロ板では曲率が大きいと応力のせいで内部散乱が増えて中が見えにくくなってしまう。もうすこしいい材料はないかな、とも思うけど、とりあえず進める。

これをさっき作ったアルミ箔を詰め込んだ「パーツA」と「パーツB」の、それぞれのパーツの間にポリスチ板が入るように組み立てる。
014combine.jpg
もうひとつでフタをする前に、墨汁を塗ったスチロール球を入れておく。このとき
0214section.png
のように、「パーツA」と「パーツB」の間にぐるっとポリスチ板が挟まるようにすると、接着しなくてもバラけにくくなる。これがふたつめのミソ。うまく挟むことができると「A」と「B」はポリスチ板で絶縁されてしまうのでさっきのアルミ箔が必要になる、ということである。

これができるのは「ダイソー」で今手に入る「くるみボタン」だけである。他の百円ショップのくるみボタンや、同じダイソーでも設計が変わるとできなくなる。しかしまたそれならそれで別の解が見つかるだろう。

で、いろいろな大きさのを作った。
0214complete.jpg

動作確認

さっきの計算の通りだとすると、ボタンは大きい方が、ポリスチ板の幅は小さい方が感度はいい、ということになる。ということでボタン$\phi$38mm+板幅17mmとボタン$\phi$27mm+板幅23mmとを比較してみる。
0214ElectrostaticChecker.jpg
クリックするとYouTubeにジャンプします)
どうもポリスチ板の散乱のせいでシラっちゃけて、スチロール球がよく見えないけど、大きく狭い方が往復するスピードは速いように思える。電荷が減ってくるとやはり小さく広い方のスチロール球が先に止まってしまう。実際にどのくらいの電位差なのか知りたいところだけど、とりあえずはいい。

これを会社に持って行って、作業しながら静電気がどこで発生しているか探してみると、カーペットの上を歩き回るだけでは静電気は溜まらないことがわかった。一番よく静電気が発生するのは、ウールのセータの上に表面ポリエステルのダウンジャケットを着てから脱いだあとで、まあそれはそうだろうな、というところ。球が激しく往復するので音がするほどである。

その次に発生するのが椅子に座って立ったとき。これは意外だった。着ている服の素材にもよるだろうけど、座面がポリエステル(と思われる)布で、中はやはりポリエステル(と思われる)クッションなので、考えてみれば当然かもしれない。オフィスの中を歩き回っていろんなものに触れても座りさえしなければこのチェッカーが反応するほど静電気は溜まらなかった。面白い。

これ、案外会社の工場なんかでも役に立つぞ。いろんなもので試してみよう。
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コメント 6

たこやきおやじ

大変ユニークな工夫で感心しました。静電気測定器は結構いい値段しますね。半導体レーザがもう壊れないことをお祈りします。(^^;
by たこやきおやじ (2019-02-16 23:41) 

decafish

コメントありがとうございます。
面白いと思っていただけるとうれしいです。偉いのはオリジナルの人ですが、高くて権威ありそうな装置ではなく、こういう手近で安いものでやるのは僕は大好きです。

レーザが死ななくなるかどうかは別問題ですが....

by decafish (2019-02-17 10:56) 

Jun Hirabayashi

これ面白いですね。アースが無くても、静電気獲得状況を知りたいですね。
by Jun Hirabayashi (2019-02-17 11:02) 

decafish

ありがとうございます。
大げさな装置ではなくて簡単に見られるのが夏休みの自由研究風で面白いのですが、荷電体が往復するという現象そのものの面白さも大きいです。オリジナルの人は偉いです。

でもさすがに電位差に対する感度は高くなくて、しかも普通の家ではアースがどこなのかもわからないので、あまり動いてくれません。

その点、ビルの中のオフィスだとちゃんとしたアースでなくても大きな電荷プールになるものはいろいろあって、さらにコピー用紙の束とか全プラ製の机とか帯電しやすいものもたくさんあってなかなか楽しめます。

楽しんでるだけではダメなんですけど。
by decafish (2019-02-17 13:31) 

mmh

おもしろそう!と思い作って見ました(^^:)
マカロンみたいでいいですね!
形だけで、ちゃんと動作するのか?見てません・・・
ダイソーに行ったら、透明の0.15㎜プラバンがありましたよ!
情報ありがとうございます!
by mmh (2022-05-05 21:04) 

赤い灯台

こちらを参考に作りました。ありがとうございます。
車を降りた時、ドアストライカー近づけると激しく動きます。
静電気の見える化、それも物理的な見える化面白いです。
偶に指がはみ出し過ぎてショックを受けることもあります。
試しに木片に取付て確認しました。
通常通り動作します。

木片に取り付ければ子供にも持たせられます。興味を持てばですが?

材料についてですが、弁当の透明の蓋やDCMで売っていたPETでも可能です。
0.5mm厚ですが短辺方向全部使いました。戻り圧力で蓋を固定できます。外れそうですが持ちます。

by 赤い灯台 (2023-12-07 12:29) 

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