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「音律と音階の科学」読了 [読書]

ブルーバックス。
音律と音階の科学
ドレミ……はどのようにして生まれたか


実に面白かった。
「科学」と大上段に構えているが読みやすい。
副題の「ドレミ……はどのようにして生まれたか」はこの本の概要を正しく言い表している。しかし、中身は過不足が無く突っ込むところは突っ込んで読み終わって満足できる。この手の本の中で書かれていることがちゃんと理解できて(わかった気分になるのではなくて)一通り十分に言い終わっているというのは珍しいのではないか。

この本はたったひとつの疑問、なぜオクターブは12半音なのか、に答えようとする。それをFourier展開と音響心理学的なデータだけから説明しようとする。単音や和音の音色とその響きという観点から言うと鳴っている音の周波数が単純な有理数比であるのがいい、ところが違う高さの音を水平に並べようとしたとき、他の高さの音との関係はかならず無理数比になってしまう、というところがそもそもの問題で、前半はそれをどのように破綻少なく辻褄を合わせるか、という方法の歴史が語られる。そのピタゴラス音律から平均率までのいろいろな調律が歴史的科学的心理的必然として語られる。ここがまず面白い。楽器を鳴らすものとして純正調と平均率の違いぐらいはちゃんと認識していたが、ミーントーンやヴェルクマイスターなどの名前は知っているだけで読むまでどういうものか理解していなかった。途中話について行くためには自分で計算してみることも必要な場面があったが、これらが整然と語られて「ぽんっ」と膝を打ってしまう。

中程で「不協和曲線」と言うものが導入される。これは二つの音がどういう音程関係にあると気持ち悪いかを、実際の印象からデータにしたもので、まるで黒体輻射のエネルギー分布みたいに見えるものが登場する。ここからがまた面白く、この曲線をもとに楽器の音色(周波数特性)と和音の関係を議論して行く。この結論としてオクターブ12半音システムはよくできているということになる。また「ぽんっ」である。

楽器を鳴らすものなら体験的に純正調と平均率の響きの違いや、たとえばピアノの左手の和音は3度の音を抜いた方が奇麗に響くことは体が知っているが、それにちゃんと理屈を付けてくれる。もう「ぽんっ」、「ぽんっ」である。

中に出て来るコルトーレンの「ジャイアントステップス」のコード進行が2小節おきに拾えばAugmentになっているというのは初めて知った。「ジャイアントステップス」はコルトレーンがラリり始めてるからなあ、ぐらいにしか思ってなかったが実は2小節ごとに2全音上がって行くそのひとつの2全音が「1ジャイアントステップ」ちゅう意味やったんやなあ。よく気がついた。

当然1冊の本にまとめるために本当は必要な音楽に関する議論はすべて「響き」という一点に集約されている。いや、それは足りないのではなく音楽を演奏するほうの人間が付け足して行くべき内容であろう。西洋の楽器はできる限り調和するように調律を決め、逆にその調律で調和するように結局閉じた弦の振動型(整数倍音しか無い)の音色ばかりを選んでしまった。この本にもガムランの楽器の音色が紹介されるが、琵琶の音色も西洋音楽から見ればびちゃびちゃした音で汚いということになるのだろう。非整数倍音の音色の可能性もこういった科学的な観点から見直しても面白い。さて武満徹は「ノヴェンバーステップス」でここまで考えいただろうか?

久しぶりに一見軽いけど中身のある良い本だった。
ねえちゃん、読め。


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