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「銀齢の果て」読了 [読書]

筒井康隆著。新潮文庫。久しぶりの筒井さんの文庫の新刊。

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横浜から仙台に戻る新幹線の中で読んでしまった。久しぶりに面白かった。

近未来と思われる日本で、社会の負担となった老人にお互いを処刑させる国の制度「シルバーバトル」の対象地区になった宮脇町五丁目での老人同士の殺し合いを描く。筒井康隆がときどき書く狂気高揚命乞い改悛断末魔悲鳴そして血飛沫が繰り返される。

筒井康隆にはごく初期の短編に「トラブル」というのがある。これは宇宙人のふたつの種族が人間の体を乗っ取ってお互いを殺し合うスプラッタで、乗っ取られた人間には意識はあって周りを見たり聴いたりすることはできるけど、体の自由は操られていて利かない。身体能力も操られることによって向上して、ほとんど素手でもう一方の宇宙人種族に乗っ取られている人間の体を引き裂いたり潰したりする。

帽子を脱ぐように頭蓋骨を切り取って裏から目玉をぽん、と押し出したり、走っているうちに上顎から上の頭が無くなって、下顎の上に舌をひらひらとさせて走り続ける男など「トラブル」にはそういうった描写が続く。

中学生のとき初めてこれを読んでショックを受けた。でも、次々人間をバラバラにしていくことに爽快感もあって、読んではいけないものを読んでしまったような後ろめたい興奮があったのを今でもよく覚えている。

「トラブル」は精密機械を取り返しがつかなくなることがわかっていながら分解してかえってせいせいするみたいな、人体の即物的な破壊が話の中心だった。

筒井康隆自身が70歳を超えて「シルバーバトル」制度が本当にあったなら対象者で、(普通の小説なら主人公と位置づけられる)宇谷九一郎は自身が投影されているように感じる。筒井康隆独特の細部の表現によって筒井康隆自身が感じていると思われる老人の悔しさや怒りが滲み出る。

制度の対象となる登場人物たちはたくさん出てくるが、枯れてお地蔵さんのようになっている老人は一人も現れない。ほとんどが老人とは思えない体力を持ち、生への執着をあらわにする。老人にも生があり個性があるという当たり前のことを主張しているようにも読める。そして結局、ほとんどの老人がほかの老人に処刑されて、それぞれの70年以上の歴史を持った人生をそこで突然終わらされることになる。

「トラブル」の爽快さはその即物性だった。「トラブル」から倍以上年齢を重ねてスプラッタの爽快さは減ったけどスプラッタの持つ意味は深くなった。筒井さん、がんばれ。そしてくたばれ、老人を馬鹿にする若者。

僕もあと20年で対象者になる。遠いようできっとあっという間。

でも、筒井さんの小説は「脱走と追跡のサンバ」「残像に口紅を」「虚人たち」なんかの実験的な小説の方が僕は好きやな。ああ、もう一度「虚人たち」みたいな小説を読みたいなあ。


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