「リュート=ハープシコードのための音楽集」蛇足 [音楽について]
さっきの「リュート=ハープシコードのための音楽集」を書いてて思い出した、バッハが書いた楽器ごとの音域のこと。
全部を調べたわけではないけど、バッハのクラヴィア用の曲では最低音はC(は音、ヘ音記号の下2線ハ)までが多いと思う。リュートは実音ではもっと低い音を持っていた。実際にバッハが書いた音域をくらべてみるとバッハのリュート曲ではBWV995にG1(下1点と音、ヘ音記号の下4間ト)が出てくる。これはクラヴィアより4度低い。逆にリュートの最高音はe2(上二点ホ音、ト音記号で第1間ホ)で、バッハのクラヴィア曲はc3までは出てくる。ああ煩わしい、楽譜に書くと
で、左がバッハがクラヴィア用として使った音域で、例えば平均率の第1巻は24曲全曲がこの範囲に収まっている。右がリュート用(BWV996を除いて)として書いた音域で、最低音はさっきのBWV995、最高音はBWV1006aのプレリュードに出てくる。ちなみにG1は13コースのバロックリュートでは出ない。バッハはいつも楽器の音域を律儀に守ってるけどこの曲ではそうではない。この曲は自筆譜が現存していてちゃんと「リュートのための」と書かれていていきなりこのG1が出てくる。でも14コースの楽器もあったと言うし、解放弦で鳴らす低音弦は曲ごとに調律を変えるということもあったらしい。
もっとちなみに、BWV1006aの最高音e2は、もしこの曲のために第1弦をe1に下げる変調弦を使っていたらこの音は12フレット目で、普通のリュートの一番高いフレットになる。BWV1006aには楽器指定はないけどこういった音域からだけでもリュートを前提としていたことが想像できる。でもこの曲を演奏するためには第1弦を半音下げて、7コースの低音弦のうち4コースを半音あげる必要がある。大変。
さらにちなみに、音域という点ではBWV996は異常。最低音はAs1で最高音はes3でクラヴィアとリュートの、どちらの音域も超えている。バッハは本当はどの楽器のためにこの曲を書いたんだろう。残念ながら今生きている人は誰もわからない。死んでいる人で知っている人がいるかも知れないけど話は聞けない。三途の川という深くて広い川が横たわっている。僕が死んで向こう岸に行ったら真っ先に訊きたいことのひとつ。
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