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「ドリームマシン」読了 [読書]

クリストファー・プリースト著、中村保男 訳。創元SF文庫。

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クリストファー・プリーストはその昔読んだ「逆転世界」が、本当にめちゃ面白かったのでちょっと古いけど買った。結果を言えばいまいちだった。

77年出版なのでずいぶん古い。それでも解説によるとでこれが長編第5作で第3作だった「逆転世界」よりはあと。でもさすがにハイウェイをとばしている主人公が車を降りて公衆電話をかけたりするところはやっぱり古くさい感じがする。まあこれはしょうがないので気にすべきではない。

数十人の人間が同時に「投射」することで未来世界が実現する。「投射」は引き出しになった棺のような狭い箱の中で夢を見るようにして行われる。その未来世界は実在するものではなく投射した人間たちが集合的に創造したものらしいが、彼らにとってはその未来世界であるイギリスの田舎、ウェセックスは現実のものとして体験される。彼らから未来のウェセックスの情報を得ることで現在の数々の問題を解決する手がかりを得ようとする計画と、その計画のメンバである主人公ジューリアが事件に巻き込まれる様子が描かれる。

ジューリアは投射先のウェセックスで計画の同じメンバであるハークマンと恋に落ちるが、彼女の元恋人であるポールが計画に闖入し、彼は未来世界から逆に過去へ、それは投射している人にとっては本来の現実へと投射しようとする。そして夢と現実が混交してしまう。

複雑系についての知見が深まった今では「投射」のような方法によって未来の情報が得られることはないということははっきりしてしまったので残念ながらSFとしてのリアリティは減ってしまった。さらに「未来」と「現在」、「夢」と「現実」の混交はディックをはじめ上手い作家(ついSF作家を先にあげてしまったけど)がすでにいっぱい描いている。

未来と現在を夢と現実に置き換え、ジューリアの恋の遍歴、ポールの異常性格などによって物語に深みを与えようとプリーストが努力したことがうかがえるが、それらがかみ合う前に物語が破綻してしまい、投げやりになったプリーストが適当なところでつじつまを合わせて終わらせたという感じが読んでいてしてしまう。その意味ではっきり言ってこの小説は駄作である。

しかし、「逆転世界」と同じ調子の渋めの表現で貫かれた物語の中に、まるでカリフォルニアかどこかの浮かれ話かと思ってしまうようなウェセックスでのエンジン付きボードの波乗りが延々と描かれて、淡いモノクロの現実にいながら極彩色の夢を見ているような、ちょっとはっとする描写が新鮮だった。残念。けどこれでは続編も無理だし書き直すわけにもいかず、もうどうしようもないな。まあ、諦めなはれ、ちゅうことやね。

ところで、「逆転世界」はSF好きで未読なら読むべし。間違いなし。黙って座ればぴたりと当たる。なんのこっちゃ。


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