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「宇宙創成期ロボットの旅」読了 [読書]

スタニスワフ・レム著、吉上昭三・村手義治訳。ハヤカワ文庫SF。 0117Lem.jpg

ずいぶん昔に文庫になってそれからずっと絶版だった。レムが死んだので復刊されたらしい。ページの中はフォントが見るからに古い。

「今はむかし...」で始まっているがその当時、宇宙にはロボットの帝国が満ちあふれ、多くのロボットの王が君臨していたという。ふたり(2体?)の宙道士がその宇宙を光速をものともせず旅して、王や盗賊に出会って彼らの機知を発揮する9編の短編集。

話はそのままヨーロッパ中世の魔導士が諸国を旅する話を、馬は宇宙船に、帝国の領土は惑星に、魔法は科学技術に置き換えた滑稽話となっている。彼らロボットが自然発生したのか、それとも他にだれか組み立てた生き物がいたのか、銀河一杯に広がっていた彼らが今の宇宙ではどうなったのか、なんかの素朴な疑問に対する答えは全く出てこない。訳はいかにも古くさそうな文語体を交えて書かれていて、中世の雰囲気を盛り上げている。

書かれた当時、レムが注目していたサイバネティクスが話の重要な位置を占める。僕の認識ではサイバネティクスは当初、制御工学やシステム工学が中心だったけどソフトウェアの個別の問題の中に拡散して、統一的な学問としてのサイバネティクスは今ではほとんど死語になってしまったと考えている。

しかし実際の中身はプログラミングの問題を話題の中心にしているものが多い。「第1の旅」では同一の機能単位を多数接続することで機能強化拡張をする話、「第2の旅」では自然言語生成、「第6の旅」では今で言う複雑系による情報生成、「第7の旅」ではシミュレーションと現物との境界の話になっている。

その他にも数学のパロディである竜代数学(「虚竜」「零竜」「侏儒再出生率」「・・・ツィブルは、竜分数の分子の倍数として知られる竜子という定数を導入して、はじめて竜を量子化した」)や、恋愛感情の装置制御「・・・この女因子装置は、出力40メガアムール。そのうち透過性淫蕩スペクトルの有効率は96パーセント。通常キロラブで表される色欲放出は・・・」などが語られる。

そしていたるところに言葉遊びがちらばっている。詩作機械の「伯楽電」は「・・・メバンクラセつつ、ベスタライルモンなるか、されどリクダキのワラホはコンミギリクカらん!」という詩から調整の結果、「非モデュラの群がるサイバネの野の果てを、わが負うべき積分に求めんとて、サイバネひとは心おののかせつ極値にいたりぬ。去れ、逆変を狙うベクトルの伏兵よ!」と詩作する。翻訳も大変だっただろう。

全体としては翻訳も含めて古くさく、中には突っ込みの足りない中途半端な話もあって読みやすくはない。それでもこの短編集はレムの博識と言葉を紡ぎ出す能力との渾然とした混合物として興味深く読めた。

やっぱりレムは好き。


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