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偏光の数学的な表現とそのMathematicaによる記述 [偏光のMathematicaによる計算]

この2週間ほど帰宅後Mathematicaの関数をちょこちょこ書いていた。なにを書いていたかと言うと、たまたま仕事でリタデーションを持つ材料の解析を行う必要が出て、Mathematicaで計算するためのこまごまとしたものを記述していた。中身はほとんどが基礎的な偏光の計算で、一般的な光学関連の教科書に載っているものである。

最終的には、その結果しか要求されず、具体的な計算のやりかたなどは全く問われなかったが、今同じ専門分野の部下もおらずメモでも作っておかないかぎり僕も忘れてしまうので、このために書いたものうち基礎的な部分をここで公開してしまうことにする。職場では集中できないので夜自分の部屋に帰ってから書いていた。従って会社のリソースは全く消費していないので、公開することに文句をいうやつはいないはず。これがこの分野を勉強する学生さんなどの役に立てばと考えている。もちろん具体的な解析内容などは公開しない。

いつものパターンで、まず計算のための数学を整理しておく。

表記法や文字の使い方はなるべくBorn&Wolfに従った。

偏光の発見

17世紀にホイヘンスという人が方解石を通して見ると、ものが2重に見えることを見つけた。彼はそれを光が2種類の速さの波として伝わるから起こるとして説明した。その点だけを考えると正しい。ホイヘンスは「光はエーテルを媒質とする波である」と考えていたらしいけど、偏光がそのエーテルを伝わる横波のふたつの成分に対応するとは思い至らなかったようでそのアイデアは18世紀のヤングが思いつくことになった。19世紀の中頃を過ぎてイギリスのマクスウェルが電磁波をベクトル方程式の形に定式化して、光は電磁波の一種だと喝破したおかげで今では偏光なんて言う直感的でない問題が大学生でも取り扱えるようになり、僕は飯のタネにできるようになった。

とまあ、ここまではありがちな前置き。

ストークスパラメータ

19世紀中頃にストークスという物理学者が、いくつかの簡単な光強度の測定で、部分偏光も含めた偏光の状態を一意に決定できるということに気がついた。その測定は一枚の偏光板と一枚の1/4波長板があればできる。その測定は

  1. 偏光板の透過軸を45°きざみに回しながら光を通し、それぞれ都合4通りの透過光強度を測定する
  2. 偏光板の前に透過軸に対して異方軸を45°傾けた1/4波長板を入れて透過光強度を測定する
  3. その状態で偏光板の透過軸を90°回転させて透過光強度を測定する
これで合計6つの光強度が得られたことになる。この値から4つの値を計算する。それは
0217eq1.png
この4つの値をストークスパラメータ(Stokes Parameters)という。ここでIは偏光板の透過軸方向がa°のときの透過光強度、IR、ILはそれぞれ1/4波長板を入れたときの強度である。当然
0217eq2.png
である。

これだけの測定で、光が円偏光か直線偏光か楕円偏光か、直線偏光や楕円偏光の場合は方位はどっちを向いているか、楕円偏光の場合にはその楕円率はどの程度か、さらに偏光の度合い(ある平均値のまわりにどのくらいばらついているか)を知ることができる。どういうことかは後で書くけど、直感的には不思議。こういうセンスはかっこいいなあ。

もちろんこれらのパラメータはs0以外は角度の基準と方向(右手系か左手系か)によって、つまり座標の取り方によって値は変わるので方位などはそれに依存する。

光の進行方向をz軸にとると電場E

0217eq3.png
となるので、
0217eq4.png
としてz軸周りの回転のマトリクス
0217eq6.png
Eにかけて
0217eq7.png
とする。これはつまり電場の軌跡は楕円になって、その楕円率はtanχ、楕円の軸の方向がψになっている。電場の強度は規格化してある。

これから具体的に強度を計算して、ストークスパラメータの式を書いてみると(ごりごりと計算すればいいだけなので導出は省略。ただしs3はちょっと工夫が必要。それは後で説明)

0217eq8.png
となる。s0は強度を規格化しなければその強度の値になり、他のパラメータも比例して変わることになるけど、単色平面波だけを考えるのであれば規格化してある方がのちのち便利。

単色平面波の場合は

0217eq9.png
であることが式-8から確かめることができる。

ちまちま書いているとあっという間に時間が過ぎる。つぎはポアンカレ球のこと。


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コメント 10

つるりん

ポアンカレはうちでもよく食べます。
温めるだけなので便利ですよね。
インド人もびっくりです。
by つるりん (2009-02-19 13:35) 

decafish

コメントありがとうございます。僕はこの2週間ほど朝昼晩ポアンカレです。
そのくせ1ヶ月もするときれいに忘れてしまいます。「鋭い忘却力!」「自慢するのも恥ずかしいが、とにかく恐ろしい」

by decafish (2009-02-19 21:58) 

ククツヒロシ

参考にして勉強させていただいてます。
(5)のEyのπ/4は、π/2の間違いではないでしょうか?
ご教示ください。
by ククツヒロシ (2009-04-15 14:31) 

decafish

コメントありがとうございます。おお、これは間違っています。申し訳ありません、訂正してください。ここはもともとあまりいい表現ではないですね。自分で見直してなにを言いたいのか理解するのに時間がかかりました。
他にもいい加減なところがある可能性が高いので、見つけたら突っ込んでください。ぜひともよろしくお願いします。
ところで、ここでの結果を自分の仕事に使っているので、こういうのが多いとヤバいかも。会社では誰もチェックしてくれないし...
by decafish (2009-04-15 22:01) 

mto

ストークスパラメータ、確認しました。s3がしんどかったですが、苦労した分、ストークスパラメータとポアンカレ球の関係がよく分かりました。ポアンカレ球上の位置と偏光状態とが1対1に対応している様子も納得しました。

勉強になりました。ありがとうございました。
これで、基礎がようやく手に馴染んできたので、これらを使った解析に入れそうです。
by mto (2010-06-19 01:00) 

decafish

コメントありがとうございます。
お役に立てたのでしたら僕としてもうれしいです。
s3の計算はちょっと面倒ですが、三角関数の代数計算だけなのでわかってしまえばどうということはないと思います。
ところで僕の計算に間違いは他になかったでしょうか....
by decafish (2010-06-20 23:01) 

つらりん

最近ポアンカレが口からでてくるのですが,どうすれば治るでしょうか.もしよければMuller行列で回答お願いします.個人的にはHomogenous circular polarizer right のMuller行列が1/2で括ると四隅に1があって好きです.
by つらりん (2014-04-14 20:00) 

decafish

それは直さない方がいいです。
ポアンカレのあとにヒルベルト、それからカントール、デデキント、ガロア、最後にガウスがでて、数学界の空也上人になれます。南無阿弥陀仏。
ところでミュラー行列の四隅が1/2になるような媒質はどんなものでしょうか。コントラストが1/2の偏光子とλ/4板の組み合わせでそうなるのでしょうか。
by decafish (2014-04-18 06:55) 

ノム

偏光の研究を行っています.ここのサイトは参考にしてもらってとても助かってます.

今回の(4)(5)で定義されてる偏光は,右回りの偏光だと思うのですが,左回りだとストークスパラメーターで何が変わるのでしょうか?
by ノム (2015-02-23 14:47) 

decafish

コメントありがとうございます。
参考になると言っていただけるとうれしいです。
ストークスパラメータは強度だけから決まるので位相の符号に依存しないように思えるのですが、偏光の右回りと左回りでs3の符号が反転します。ポアンカレ球でいうと北半球から南半球に移ります。
ストークスパラメータは直接測定可能な値からできていて、測定するのに使う位相板(λ/4板)の符号を決めれば、測定上でもその区別ができます。ただしそのとき、λ/4板の符号をあらかじめ知っている、あるいは別の手段で決定する必要があります。
もちろん式(4)、(5)(間違ったままです)の定義や、座標をどう取るかでくるくる反転してしまうので、すべてをコンシステントに扱うのは注意が必要で、白状すると僕には苦手な作業です。
by decafish (2015-02-23 18:08) 

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