偏光の計算 - その4 [偏光のMathematicaによる計算]
偏光の計算のまとめ。偏光を扱う数学について。ストークスパラメータ、ポアンカレ球、ジョーンズベクトルをおさらいした。今回はそれぞれの特徴、利害得失を簡単に。
偏光の表示の特徴
さてこれで単色平面波の偏光状態の表し方が何通りかできた。それはおおまかには
- ストークスパラメータの値、すなわちポアンカレ球上の位置
- 電場の楕円率χと軸方向ψ
- 電場のx方向とy方向の振幅の比αと位相差δ
3つもあってなにがうれしいのか、と言う感じだけどこれらはそれぞれ利点がある。
ストークスパラメータとジョーンズベクトルの比較
本来光は強度が測定できるだけで、振幅や位相は直接測定できない。だから、測定できる量だけでできているストークスパラメータの方が現実との対応がつけやすい。ストークスパラメータは光の強度を扱っているので部分偏光のような一般の偏光も表現することができる。例えば全く偏りのない光(非偏光)は強度が偏光板の方向に依存しないので引き算になっているパラメータは0になって
と書ける。部分偏光のような場合、ストークスパラメータは のような値の組として表現できる。だが一方で、光の波としての特徴である重ね合わせ(干渉)は振幅や位相を考慮しなければ表すことはできない。また、ジョーンズベクトルを見ればわかるように振幅と位相で表現するのが数式としても一番簡単になる。
偏光変換素子の表現の比較
ストークスパラメータを4要素のベクトルと解釈して、波長板を4行4列の(実数要素の)マトリクスとして表現してストークスパラメータ間の変換として扱うことができる。このマトリクスはミュラーマトリクス(ミュラー行列 Mueller Matrix)と呼ばれるが、光強度の間の変換であり、例えばもともと波の位相を変化させる素子である波長板をむりやり強度変化に読み直すため冗長な表現となる。同等なジョーンズマトリクスの方が直接的な表現だと言えるし、ずっとわかりやすい。
ストークスパラメータは要素の物理的な意味がそれぞれ違っていて(強度の足し算はわかるけど引き算てなに?)ミュラーマトリクスの形には強い制限があるが、ジョーンズマトリクスにはそういった制限がない。
ミュラーマトリクスはわかりやすくないしジョーンズマトリクスの方が便利で、知らなくても偏光の計算はできるのでここでは扱わない。
波長板などの偏光を変換する素子もジョーンズベクトルを使えば、ベクトル間の変換を表す2行2列のマトリクスとして書くことができる。
波長板は材料としては複屈折性を持った誘電率がテンソルで表される媒質だけど(あとでちょっとだけ議論する)、平行平板に切り出して入射単色平面波の偏光状態を変換する作用に注目した場合、ジョーンズベクトルに対する作用素として
のようなものに簡単に表現できる。ちなみにこれは進相軸がy方向を向いた1/4波長板を表す。軸の回転はしょっちゅうでてくる2次元の回転の作用素 を両側から のようにかければよいことはすぐわかる。このように数学がぜんぜん楽。比較のまとめ
ごちゃごちゃと書いてきたストークスパラメータとジョーンズベクトル比較をまとめてみると
ストークスパラメータ | ジョーンズベクトル | |
---|---|---|
測定値との対応 | 直接的 | 間接的 |
偏光状態(楕円の形)との対応 | 直感的 | 要計算 |
部分偏光の表現 | 可能 | 不可能 |
要素の値 | 実数 | 複素数 |
要素の物理的な意味 | 強度(?) | 複素振幅 |
偏光変換素子の表現 | 複雑 | 簡単 |
これだけではなかなかわかった気にはならない。次回、偏光変換素子として波長板どう表現するか、というのをまとめて、その具体的な例としてセナルモン法の計算をしてみるつもり。
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