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「プロバビリティ・ムーン」読了 [読書]

ナンシー・クレス著、金子司訳。ハヤカワ文庫SF。

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ま、こんなもんだろ。

今僕らが住んでいる世界とはまったく異質な世界の物語は面白くて心躍る。SFを読む面白さのひとつはそういう全然異質な世界を(たとえ想像の産物であるとはいえ)垣間見せてくれることにある。

このクレスの本も出だしは異質な世界に触れる面白さが現れている。

22世紀、太陽系周辺で見つかった由来不明の建造物「スペーストンネル」でいわゆる「ワープ」が可能になっている。出口のひとつにある、単に「世界(ワールド)」と呼ばれている惑星に調査隊が乗り込む話なんだけど、話はその「世界(ワールド)」に住む少女エンリの話から始まる。

「世界(ワールド)」人たちは禿頭で首毛があり、機械と言えばせいぜい自転車くらいで、花を育てて何かにつけて花を話題にする温厚な種族で、戦争や犯罪はその世界にはない。

それはなぜかと言えば、彼らには「現実を共有」する能力があるからで、「現実を共有」とは、物語の記述が曖昧で一般論はわからないけど、どうやら情報が真実であるかどうかに対する直感を持ち、そういった真実の集合を共通の認識として種族全員が画一的に持つことができるらしい。現実を共有できないとき、彼らは頭痛という生理的な反応を起こす。

彼らにとって現実を共有する能力を有することはすなわち「魂」を持つということと同義で、子供にはその能力が初めて発現するとき(頭痛が起こったことを申告したとき)に通過儀礼を盛大に行う。逆に、ある年齢を過ぎても現実を共有できない子供や、何かが原因で共有を失った、あるいは拒否したものは「非現実者」と呼ばれて、どうやら生存の権利さえないらしい。物語の初めに出てくる少女エンリも「非現実者」であるが、どうしてそうなったかは明らかではない(兄タボールとの近親相姦が仄めかされるがそれとの関係はわからない)。

物語の前半には彼らの異質な風習や習慣がちりばめられて(挨拶のたびに「あなたの花がつねに咲きこぼれますように」と言って花をやり取りする花への執着や、名と姓の間にかならず「ペク」という一種の尊称を挟むとか)いて面白い。後半は、調査隊が現実者かどうかを確かめるスパイとして来たエンリが、非現実者と判断された調査隊の山への逃避行に巻き込まれる話になる。

実は地上に降りた調査隊は隠れ蓑で、本来の目的は「世界(ワールド)」をまわる月のひとつを確保することだった。その月は「スペーストンネル」と同じ由来の人工物だった、といういかにもSFな設定。まさしくその事実のために地上の調査隊は「世界(ワールド)」人から追われることになり、本の腰巻きにもある「フォーラー」も登場する。

その後半では異質な物語はなくなってしまって、SF的ガジェットによる謎解きに集約されていく。僕の趣味としては「重力の使命」や「竜の卵」みたいな異質な世界を描くことに集中するほうが好き。後半の中心になるSFガジェットはハードSF的には生煮えで中途半端だし。

さらに言えばそういった普通のSFに出てくる異質な世界の異質な生物も、知的な生物であるならどこか共通する基盤があって人間とコミュニケーション可能であるというような西欧的な楽観性は僕の趣味としてはつまらない。もっと断絶した世界や生物の物語が読みたい。

「プロバビリティ・ムーン」はあと2冊の連作を含めて3部作だという。このご時世で給料も減るし、続きはもうええわ。僕の期待通りにはならなさそうだし。


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