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「リアルのゆくえ」読了 [読書]

大塚英志、東浩紀著、講談社現代新書。

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娘が貸してくれたので読んだ。二人の評論家の対談集。

僕は20年以上技術屋としてやってきている、いわゆる理系バカの典型のような人間なので、彼らの議論の半分も理解できなかった。対談集というのはほとんどの場合、一見議論しているようだけど、実は自分の言いたいことだけをかわりばんこにしゃべっているに過ぎない、というのが多い。そういう場合せいぜい、いかにもっともらしい接続詞を使って自分の主張の開陳が不自然にならないかという技術の競争にしか見えなくなってうんざりする。

それに較べて彼らは少なくとも議論しよう、としている。でもまったく噛み合っていない。読んでいてイライラ、というかもどかしい感じがつのる。

噛み合わない原因のひとつは、そもそもそれぞれが使っているボキャブラリがほとんど共通していない、ということがある。相手が使う言葉を自分の言葉に翻訳するという作業に本のほとんど2割ぐらいを費やしているように見える。しかもその努力が必ずしも成功していない。

東 「...パラダイムが変わるってそういうことなんですよ。そしてパラダイムが変わると、内部でもみんなバラけちゃう」
大塚「ああ。わかった気がする....自分たちはバベルの塔が壊れちゃった後の人類で、たぶんぼくたちは、バベルの塔が壊れる前の人類だって言うのが君の実感なのかな....」
東 「それを「バベルの塔が壊れた」というかはどうかはともかく....」
あまりにひどい。まずお互い共通の同じ意味の同じ言葉を定義するということから始めなければ意義ある議論は望めない。これでは虚しい。

また別の原因は、大塚は社会現象の背後にある本質的な「なにか」に対する議論をしたいのに、東からは大塚にとって各論としか思えない内容しか帰ってこない。まるで玉葱の皮を剥くような印象を持つようで大塚はすぐイライラしてくる。実は東はそれをそもそも各論だとは思っていない。なぜかお互いこのすれ違いを修正する努力をまったく払わず、この点に関しては自分の主張を繰り返すだけになっている。

そしてもうひとつ重要なことがある。彼らはどうやら二人とも今の日本人に対して絶望しているということは共通している。結局日本人はポストモダンだとか言う以前にそもそも近代的(モダン)な自我の確立さえ経験していない、日本のポストモダンはそれをごまかすための言葉にすぎないという絶望だと僕には読める。ところが大塚はそれを「それではだめだ、もっと頭を使え」と叱咤激励しようとする一方、東はどうせダメだから現状を肯定できるような次善の方向を探そうとする。過激な言説に隠された彼らの無力感と、言論人としての責任を果たしたいという空回りとも見える焦燥感が行間からちらちらと見えて読んでいてなんともやりきれない。

少なくとも数学という共通言語を持っていると信じている技術屋の僕としては、彼らの議論は膨大な労力を投入して消しゴムの削り合しかしていないように思える。もちろん技術の現場では「数学という共通言語」も幻想であることが多いのだけど、もう少し何とかならないのか。これでは議論すること自身が虚しいだろう。

僕も彼らの絶望や無力感は理解できる。でも僕は彼らと違ってアカの他人の認識に責任を持たなければいけないというような強迫観念は持っていない。結局自分は自分、他人は他人でしかない。彼らはそれではいけないというのであろう。それはよくわかる。でもそのためには彼らが議論しているような社会システムや政治の問題に加担する必要があり、それは労多くして実りの少ない仕事になって、それを無視することによる不利益を上回ることになると思える。その点では僕は東に近い立場かもしれない。

この本の終章では彼らはそれぞれの絶望を共有して議論のすれ違いは少なくなる。でもそのせいでよけいお互いの距離があらわになった。本の出版に際して大塚はもともとあった彼のあとがきを削除した。なにが書いてあったかはわからないが、内容は想像に難くない。そしてあとがきには東のものだけが残された。東も大塚のあとがきの削除(とそれと同時に行われた本編についた注釈の削除)について「スケジュールの都合から削除部分の確認を行っていないので、脈絡に飛躍があるかもしれない...」などと無責任なことを書いている。

彼らが日本の知識人たちの典型なのかどうかは僕はよくわからない。でも知識人たち、本当にこれでいいのか。

この本を読んでまたちょっと違うことを思いついたので、続く...


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