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ちょっと前の論文を読んでみる - その13 [趣味のメタマテリアル]

昨日Pendryさんの論文のキモの部分の解釈をしてみた。個人的な勝手な解釈であるが、考え方はそれほど難しくないので、たぶん間違いようが無いと思う。今日でPendryさんのこの論文を読むのは一段落にして、そのしめくくりに「増大する場」に対して直感的なイメージを与えてみる。

1.4.4  場の増幅の直感的なイメージ

ϵ = −1かつμ = −1の媒質の内部では、エネルギーの伝わる方向と逆方向に位相は進むので、エヴァネセント波は位相と同じ方向に見ると減っているように見える。たしかに、もしほんとに位相速度が逆を向くなら、境界面で接続するためにはエヴァネセント波も逆を向かないとつじつまが合わないような気もする。
直感的なイメージを図-2に描いてみる。
0910fig02.png
上から通常の光がエヴァネセント波を伴って、境界面に向かって入射してきたとする。ただし、境界面の法線方向からではなく、ちょっと傾いた方向から来ているとする。緑色は伝播波の位相を表して、赤色はエヴァネセント波の大きさを表しているとする。

下側のϵ = −1かつμ = −1の媒質との境界面では伝播波の位相は連続でなければならない。従って境界面では緑色の位相は上下で一致するような場になって、結果的に「く」の字のように屈折する。

エヴァネセント波に対しても境界面で同じように連続である必要がある。伝播波とまったく同じように境界面で接続するなら、エヴァネセント波は媒質に入るにつれて大きくならなければならない、ということになる。

1.4.5  蛇足

ひとつコメントしておかないといけない。図-1では光がABへ、そこからCDと伝わるに従ってエヴァネセントな場が増幅されるようなイメージができてしまうが、それは間違いである。

エヴァネセントな場は波数ベクトルに実数部を持たないので場所による位相の違いはない。つまりエヴァネセント波のひとつの成分は時間的には全空間で一斉に同じ振動をしている(もちろん、だからこそ遠くではすぐに小さくなる必要がある)。

例えば最初、図のダイポールは振動していなかったとしよう。そのときはどこの場も0である。そしてある瞬間に振動を開始したとしよう。その瞬間に発生した電磁波の波頭が空間に広がっていく。そしてそのままϵ = −1かつμ = −1の媒質にも入っていくが、波頭は非定常的な複雑な場を伴いながら、エネルギーの進む方向に進んでいく。そして波頭が通り過ぎた後に図にあるようなエヴァネセントな場が定常状態として残る、というイメージがおそらく正しい。

その他にも、いろいろ突っ込みたいことはあるけど、たぶんすでにさんざ議論されているであろう。そういう議論も必要だけど、ほんとにこんなことが起きるのか、そしてもし起ることが実際に確認できたら、その場の様子を詳しく観察する、ということが手っ取り早い。そしてマイクロ波の領域では実際にϵ = −1かつμ = −1の媒質が作られて、検証が行われつつあるらしい。すごいことだ。

1.4.6  論文の残り

論文の残りの部分は、現実的にϵ = −1かつμ = −1の媒質なんていうものがあり得るのか、ということに議論が移る。準定常場では誘電率と透磁率を独立に考えていい、という話をして、ある波長(だいたい1μm弱)で銀(Ag)はϵ = −1となって、銀の40nm厚のスラブは100nm以下のLine and Spaceを解像できる、と計算している(銀の吸収のため解像度は無限大にはならない、と言う)。

この部分はダメ押しにあたるので、翻訳と考察はここまでにする。じっくり読んだので結構詳しく理解できて面白かった。でもやっぱり「ほんまないな」という印象が無くなることはないな。前にも書いたけど、Pendryさんの式-21と式-23までの計算そのものは、電磁気を勉強している学生に理解できるレベルなので、そのうちこういうことが常識になるんだろうか。
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