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「タイム・シップ」読了 [読書]

スティーブン・バクスター著、中原尚哉訳、早川文庫SF。

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いまいちだった....

ウェルズの「タイム・マシン」の続編として書かれたという。前回の80万年未来への旅で悔いを残した「ぼく」はもういちど未来に行くことにした。ところが訪れた先は前とは違っていた。どうやら「ぼく」が前回80万年未来からもとの19世紀末に戻ったことで、未来を変えてしまったらしい。その(「ぼく」の主観的時間における)後、「ぼく」は「モーロック人」のネポジプフェルと一緒にさらに遥かな過去や未来を行き来し、最後には時間の始まりを目指し、さらにそれを越えようとする...

あらすじを書くのがめんどくさくなるほど話は発散していく。バクスターお得意の宇宙論的な大風呂敷を広げて、さてどうやって回収するんだろう、と思って読み続けてたけど結局回収されずに終わった。日本のSF作家の作品にありがちな(誰のどれとは言わないけど)一番最後に主人公の内面的な納得だけで話を終わらせてあとはほったらかし、というパターン。

だいたいがして、時間旅行に伴う矛盾の解決策としての「多世界解釈」は、物語の安易な放棄であると僕は思っている。もちろん因果律が破綻した物語では読むに堪えないのだけど、「多世界解釈」を援用した物語は「時間旅行」とは名ばかりの、自分とは直接関わりのない単なるエキゾチックな世界への移動でしかなくなってしまったものが多いように僕には思える。そういうSFでは「時間」を移動するということはどういうことなのか、という問題意識は取り残されて、SFというよりは「千夜一夜物語」や「ガリバー旅行記」になってしまう。

この「タイム・シップ」も「ガリバー旅行記」の現代版劣化コピーという感じになってしまっている。そのエキゾチズムもなんだか卑近矮小で、何十万年という時間の重みが感じられず、なんだかひょいひょいと、ほい百万年、もうひとこえ一億年、というふうに僕には読めてしまった。そもそもネポジプフェルがなんのために「ぼく」と行動と共にするのか読んでいて釈然とせず、結局主人公(というよりは作者)に替わって状況を説明する狂言回しだということが読み進むにつれて理解されることになる。あまりに安直である。

前読んだ本でなんとなくわかったような気がしてるだけでちゃんと式を追っかけてディテールを理解しているわけではないので大きなことは言えないけど、僕は量子力学のいわゆる「波動関数の収縮」というのは、過去の解決済みの問題だと思っている。したがって今では「多世界解釈」も不要であると思っている。そもそも僕は「多世界解釈」は物理の理論として気に入らなかった。なぜなら分岐したとき必要なリソースは分岐数倍になる。一つの宇宙全体のリソースが厳密に制限されている(エネルギーはじめ色々な保存則がある)のに、分岐は無制限というのはおかしいと思うからである。

もしそうだとすると、たくさんある「時間旅行ものSF」のなかの一部は根拠を失うことになる。だいたい、御都合主義的なストーリに権威のお墨付きを与えるためだけに「多世界解釈」を持ち出しているようなSFがあるので、僕としてはそういうのはさっさとお払い箱にしてもらいたい。

ちなみに僕はウェルズの「タイム・マシン」を子供の頃読んだだけなので、もうほとんど忘れてしまっている。話がどうやって終わったのかも今では思い出せない。でも僕が一番好きだったのは、タイムマシンで時間を移動するときに外の景色が、今でいうタイムラプスのように見えていることが描写されているところ。ウェルズが「タイム・マシン」を描いたころはちょうど映画が作られるようになった時代で、おそらくそれにかかわる人たちは映画という新しいおもちゃを手に入れて、すごいスピードで人を歩かせたり急に消したりして遊んだに違いない。ウェルズもそういう映画の遊びを見て、このシーンを思いついたのではないか、と思っていた。でもタイムラプスで黄道が光の帯になるような絵をとるのは今でも大変だろう。

さらにちなみに、タイムラプスの絵で最近一番のお気に入りはこれ。NASAはSDOのデータを素人向けにまとめたものを毎年出してるけど、だんだんうまくなるのか、今年のはいかにもおいしいところを集めましたという感じで、絵が美しい。金星の太陽面通過がなんか「2001年宇宙の旅」みたいな演出になってるし。

話がバクスターとは何の関係もなくなったな。
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