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キット・アームストロング ピアノ・リサイタル [クラシック]

女房が注目している若手のひとり(世界的に売り出している若手はいちおう全部注目するらしい)キット・アームストロングのコンサートが昨夜浜離宮ホールであったので二人で行ってきた。
kitArmstrong.jpg

不満はいろいろあるけど、若い人の演奏を聴くのはやっぱり楽しい....

席は7割ほどが埋まっているぐらいで後ろに行くほど透いてしまっていた。プログラムはバードのバージナル曲が4曲、モーツァルトの「幻想曲とフーガ」とK576のソナタ(ポストホルンみたいな6/8で始まるやつ)、休憩の後リストのロ短調ソナタと「巡礼の年」の「エステ荘の噴水」、アンコールでバッハの平均律1巻のホ長調だか嬰ヘ長調だかのプレリュードとフーガ(一晩経つと思い出せなくなった)、そのあとなんだかチックコリアの「Children's Songs」のパクリみたい(左手の8分音符6個のオスティナートに右手でアドリブ風、バードに依っていると聴こえたけどよくわからない)なやつ。

ステージに現れたピアニストは小柄細身で巨大なピアノの横では高校生ぐらいに見えた。パンフレットを改めて見直すと「さかなクン」みたいな顔してて、ええ?この体格でロ短調弾くの?と心配になってしまった。

バードはふだん僕が古楽器でばっかり聴くせいもあって大きなダイナミクスや音色変化に違和感があった。特に速いパセージが丸く団子になっているように聴こえて僕の好きなタイプではなかった。でもそれはホールで座った位置の影響もあるのかもしれない。

その後のモーツァルトはかなり大柄な感じ。特にソナタの方はすごくねちっこくて息苦しい。全曲ずっと緊張して音を埋め尽くそうとしているように僕には聴こえた。モーツァルトの晩年(と言っても三十代前半)の曲は軽さ楽しさ何気なさの中に思いがけず奥行き深さや複雑さが現れるようなのが多くてこのソナタもその典型だけど、もう少し隙のある余白を残してさらっとやったほうがその対比がわかりやすいような気がする。いかにも若者らしい「やってやるぞ」というふうな気迫の現れなのかもしれない。でも彼が何をやりたいのかはよくわかったような気がする。その意味では佳演。

休憩のあとはリストのロ短調。あの体格ででかい音をガンガン鳴らす。指はよく回ってミスタッチはほとんどなく大音量でも制御性はかなり高い。しかし総じてフォルテになると音は荒々しくて、その結果スリリングではあるけど耳への負荷も高かった。はっきり言えば僕はリストの曲の粘着質な「俺が俺が」や譜面が真っ黒に見えるような音符の多さと異常な大音量が好きではないので、彼のような音は僕個人としては評価の下がるポイントになってしまう。

そういえばモーツァルトも音が汚いとは言わないけど、他のピアニストが弾くような音色の綺麗さが印象に残るというようなことはなかった。逆にその結果の明快さではあるんだろうし、音色の甘さを売りにするようなモーツァルトを僕は嫌いなので、それでいいんだけど。

あのロ短調ソナタの、癖のあるテーマが執拗に入り組む長くて複雑で暑苦しい曲に対して、最後までダレるということはなかった。フレージングの息も長くて、小柄なのに強靭な体力強い腕力大きな肺活量のように聴こえた。これも若さのさせる技なのか。

ロ短調を聴き終わって聴いてる方が疲れた感じがする後の「エステ荘の噴水」は、あ、もうお腹いっぱい、もっとあっさりした茶漬けか蕎麦で終わりにしたかったのにでかい生肉が出てきたみたいな、そんな感じで耳がついていけなかった。あのロ短調を弾き終わった後にさらにこんなのを弾くというのもすごいといえばすごい。

アンコールのバッハはモーツァルトがああだったのでなるほどな、という感じ。個性的で面白いといえば面白い。でもプレリュードの方はどこかこう、もうちょっとあるだろ、という感じがしないでもない。

こういう若手の演奏を女房が面白がるのもわかるような気がする。僕もこうやって聴くとやっぱり若い人の演奏は面白いと思った。独りよがりだったり勉強不足を感じたりすることも多いし、彼にもそういう面が見えるけど、それを補って余りある新鮮さがある。老大家と言われるような演奏家は過不足なく完璧な演奏をするのかもしれないけど、予定調和的な名演なんか退屈なだけで、僕みたいな年寄りにはこっちのほうが栄養になる。若い人にはどんどん出てきてもらってがんがん自分の好きなことをやってもらいたい。

若者の生き血をすすって生きながらえる妖怪ぬらりひょんみたいになってしまったな。
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