NHK芸術劇場のギル・シャハム [クラシック]
遅くなったが金曜夜の芸術劇場の録画を見た。
モーツァルトのヴァイオリンソナタ。
明るくて夾雑物がなくてある意味清々しい演奏。まるでアメリカ黄金時代の工業製品のように力強くて間違いがない。進歩が我々の製品です、未来は我々が作ります、と言っているよう。モーツァルトの細工や引っかけを薙ぎ倒す60年代キャデラック、こうなってしまうとひょっとしてモーツァルトではないのでは、と一瞬思うこともなくはないが、いやいやそんなことはない、これでいいのだ。型に嵌った「これがモーツァルトやでぇ」というようなモーツァルトは聴き飽きた。
次はバッハのイ短調無伴奏ソナタ。
バッハを聴いて気がつく驚きの音程の正確さ。曖昧さやいい加減なごまかしはいっさいない。調子良くリズミカルに進むフーガは小気味よい。これなら「フーガ」に聴こえる。アンダンテでもシャハムは休まない。8分音符のオスティナートを実に正確なリズムで続ける。ちゃんと弾くと懐深いいい曲やなあ。アレグロも太い音色で長い呼吸のフレーズを一気に弾く。決して新しい表現ではないが、自分の音楽を素直に出していて耳を惹き付ける。すばらしい。
ロドリゴのソナタピンパンテ。
ロドリゴにしては珍しく古典的な形式感の乏しい曲。しかし独特の歌は豊富で、シャハムのソプラノではなくメゾが歌うような調子が曲に合う。ファリャかと思うような2楽章、ロドリゴらしい短2度衝突の和音と鋭いリズムの3楽章。シャハムはホールを隙間無く塗りつぶすように弾く。ちょっと情緒を取り残すようなところもあるがスポーティでかっこいい。(ロドリゴのこの曲知らなかったけどぴんてぱんてぽんてぷんて。とり・みき。いえいえなんでもありません)
アンコールのサラサーテもシャハムは体操選手が妙技を見せるように畳み掛ける。確かな音程と太くて強い音色、それになんと言っても借り物でない本人自身が素直に現れているように聴こえるところが魅力。甘い音色が好きな人にはぎすぎすしていやかもしれんが、ええんちゃう、僕は好き。コンチェルトも聴いてみたいね。ベートーヴェンとかショスタコーヴィチの1番とか。
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