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「光合成とはなにか」読了 [読書]

園池公毅著、ブルーバックス。

1029光合成.jpg

難しかった。

僕は専門家ではないけれど、分子生物学は面白い。光合成は学校の理科生物の時間でたびたび出てきてよく知ってるような気がしてるけど、本当はなかなか複雑で難しい。

酸素呼吸は糖なんかのある程度大きな分子を分解することでエネルギーを得ている。最終的にはおもに水と二酸化炭素になる。ところが光合成はまず水を水素イオンと酸素に分解する。水はすごく安定な分子で、例えば電気分解なんて言う過激な方法で分解できるけどエネルギーを注入して始めて可能になる。葉緑体はこれを光のエネルギーを使って行う。しかも高エネルギーの短波長の光ではなく、大気の層を通過できる可視光でそれをやる。実に不思議。

この本に出てくる光合成の反応経路はすごく複雑で多くの中間生成物を必要とする。最終的にATPを合成するためにはこの反応が途中で終わってしまったらエネルギーを注入しただけでなんの利益も出ない。だから、進化の過程で最初の反応から順に継ぎ足されて今の反応経路が出来上がるなどということはあり得ない。前に読んだカウフマンの本に出てくる「糸とボタン」みたいなことが起こらないといけない。とても信じられないんだけど、それに代わるメカニズムは全く考えられない。実に不思議。

この本はほのぼのとした優しく柔らかな文体で、単に文体として統一したのではなくて、きっと人柄がそうなのだろうなと思わせるような文章で書かれている。でも本当にこういう人柄だったら不利益も受けただろうな、とも感じてしまうような文章。まあ他人のことだからそれはどうでもええけど。

でも、読んでいて難しい。例えばこんな文章が出てくる。

「...ゼアキサンチンをアンスラキサンチンを経てビオラキサンチンに変換するエポキシ化酵素は弱い光の下で高い活性を持つのに対して、脱エポキシ化反応を触媒する酵素は強い光の条件の下で活性化されます。つまり、弱い光条件ではゼアキサンチンの量は少ないのですが...」

それぞれの分子の名前を読んで個別のイメージを浮かべられるなら別だろうけど、違う単語であるということしかわからない僕にとって、ここを何度読み返しても頭に入ってこない。

また、本の前の方に出てくる光を吸収するタンパク質構造体の名前の「LH1」と「LH2」、「LHCI」と「LHCII」なども「...紛らわしいのですが、全く別のものです」と書かれているだけでどう違うのか言及が無い。

これでは博物学的に名前を羅列しているだけで、読んでいてなんにも理解が進まない。こういう場面がこの本には少なからずある。これは素人にとっては実につらい。

面白い話だし、本の全体的な筋道も興味深いだけにこういったディテールはちょっと残念。

ところでこの本に「C3植物の場合、ルビスコ(二酸化炭素をカルビン回路に取り込む働きをする酵素の名前)は12Cを含む二酸化炭素を13C(炭素の同位体)を含む二酸化炭素よりも好んで使うという性質を持っています」なんてことがさらっと書いてある。なにそれ?化学的な性質が区別できない同位体を区別する能力が酵素にあるってどういうことなのか?ルビスコは質量分析器でも持ってるのか?全然違うレベルで不思議。これは説明が欲しい。


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たこやきおやじ

生物、化学系は私なんぞはチンプンカンプンです。(^^;
by たこやきおやじ (2008-11-05 09:09) 

decafish

コメントありがとうございます。私も学生の頃は生物学や有機化学はただ名前を覚えるだけのなんてつまらない学問だろうと思っていました。そのふたつが合体した分子生物学は生物の営みのメカニズムを説明する手段となることを知って勉強してみる気になりましたが、学生の頃ぞんざいにやり過ごしたせいで基礎ができていません。ああ、勉強したい。時間が欲しいです。
by decafish (2008-11-05 22:31) 

SY

 はじめまして。Cocoa開発の参考にさせて頂いております。この話題ならちょっとはお役に立てるかと思いコメントします。書いてみたら長くなってしまいましたがご容赦を。
 ゼアキサンチン<->アンスラキサンチン<->ビオラキサンチンは可逆で、分子の変換をする酵素がエポキシ化酵素(右方向)と脱エポキシ化酵素(左方向)となります。文中でも出てくると思いますが、これらの分子は過剰なエネルギーを熱へと変換して反応系(光合成系)を保護しています。ビオラキサンチンは反応系とエネルギーのやり取りができますが、他の2つはできません。よってエネルギーの流れとしては左方向です。矢印で書くと、熱散逸<=ゼア・アンスラ<=ビオラ<=>反応系。野外における光量子量の変化(最短で数秒〜数分のオーダー)に対して、反応系を保護する為にこの3つを生合成していては間に合いません。そこで3つの量比を換えることで対応していると考えられています。ここでゼア+アンスラの量比を上げれば大きな、下げれば小さな熱散逸が期待できます。光が弱いときはビオラの量が相対的に高い状態ですが、ビオラは(開いた)反応系にエネルギーを戻すことができますし、アンスラ・ゼアの存在量が少ないので確率論的に熱散逸へのコンダクタンスが低くなります。結果として無駄遣いが少ない状態を維持できる…と。光が強くなりゼア・アンスラの量比があがり熱散逸系へのコンダクタンスが高くなるのと同時に、反応系側は詰まった(電子を受け取れない)状態の確率が高くなりますので、より散逸系へ流れ易くなります。実際にこの量比を決定しているのはエポキシ/脱エポキシ化酵素で、この酵素の活性が光による調節を受ける事で、光が強くなっていく方にはリアルタイムに近い量比変化をもたらしています。逆に弱くなっていく方は、タイムラグが大きく数時間かかります(安全策のように見えますね)。
 LH1/2 はバクテリア(藍藻)の反応中心(水を分解する所)とアンテナ色素の複合体。LHCI/IIは真核生物(海藻〜陸上植物)のアンテナ色素の複合体です(反応中心は別)。
 ルビスコの性質についてはどうやって区別しているのかよく知りません。ざっと専門書にあたってみても天下り的で原因については記述はありませんでした。が、拡散係数によってわずかに違っているのかも…と想像しております。文中にあるかどうかは分かりませんが、葉の内部の同位体比は気孔の開き具合によって(わずかですが)左右されます。これは拡散係数の違いによる、と説明されています(13Cは質量が大きい分、拡散係数が下がる?)。なのでルビスコ周辺でも、拡散し易い12Cの方が固定される確率が高いのかな、と。
 光合成の専門ではないので間違いもあるかもしれませんが、イメージとしてはこんな感じです。園池さんが一般向け?に書いたwebもありますので、そちらもご参考にされてはいかがでしょう。
http://sunlight.k.u-tokyo.ac.jp/
by SY (2008-11-20 13:40) 

decafish

丁寧なコメントありがとうございます。最近分子生物学に興味を持つようになったのですが基礎が無いため苦しんでいます。ディテールがわかれば分子が動いてはたらいている様子が思い浮かべられて面白いだろうなあ、と思うのですが....ルビスコの同位体選別はコメントいただいた拡散のような物理過程がからんでいるとすれば納得できます。ただし拡散だとするとかなり小さい差のはずです。反応速度論みたいな考え方で説明がつくのでしょうか?「園池さんが一般向けに書いたweb」見てみました。素人にはなかなか歯ごたえがあって「深い森」のようです。

by decafish (2008-11-20 23:19) 

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