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芸術劇場「ドゥダメル」とN響アワー [音楽について]

金曜日の夜に横浜の家に帰って芸術劇場の「ドゥダメル指揮ボリバル・ユースオーケストラ」を女房と見た。日曜に仙台に戻るとN響アワーで「第9を超えた男たち」と題してマーラーとショスタコーヴィチをやってた。

N響アワーでとりあげられたマーラーとショスタコーヴィチは僕の一番好きな作曲家のうちの二人。マーラー本人のナンバリングではニ長調の9番が10番で、この嬰ハ調の10番が11番だった。どっちも初演はマーラー自身が死んでしまってからになったので、おそらくはわざとニ長調を「第9番」として発表したんだろう。

10番は池辺晋一郎が言うように第1楽章しか完成されなかった。でもピアノスケッチは最後までできていて、オーケストレーションをする前の4段譜もかなり残されている。それを補筆して完成させたものに録音があるものだけ拾っても少なくともCooke版、Wheeler版、Mazetti版のみっつがある。その他にCarpenter版などいろいろあるらしいが僕は音の確認ができていない。

オーケストレーションが残されてないのでスケッチにある音をどの楽器に振るか、対旋律の頭だけ書いてある音をどのように続けるか、で違いが出てくる。特にオーケストレーションのテクスチャは、さすがに版によってずいぶん違いがある。個人的な趣味で言えばCooke版がいちばんマーラーらしいチャーミングさが出ているような気がする。オーケストレーションを厚くするとマーラーから遠ざかるような気がする。

ショスタコーヴィチは彼の7番を書いていた頃、マーラーの10番の補筆を未亡人のアルマ・マーラーに(代理人を経由して)依頼されている。もちろん結局断っているけど、マーラーを研究し尽くしていたはずのショスタコーヴィチが補筆していたら面白い版ができあがっていたはずだった。そのあとシェーンベルクにも依頼が行ったらしい。まあ、そっちはないだろな、という気がする。アルマの人選は正しいけど、一方で補筆のためのスケッチやメモの整理をアルマはほとんどやらなかった。ずっとマーラーの楽譜の清書をしてきたアルマへの彼女にしかわからない指示もあったはずだと僕は思う。アルマのせいで4段譜から失われた情報もあるのではないか。

N響アワー後半はそのショスタコーヴィチの9番。ショスタコーヴィチは「9番はレーニン交響曲を書く」と宣言していながら結局その構想は頓挫する。そりゃそうだろ、無理もない。その反動でできあがった9番が今夜聴いた曲。池辺晋一郎が壮大な9番のイメージに対する「肩すかし」と言っていたけど、曲の中身にも肩すかしやはぐらかしがいっぱいあふれている。

この曲は「縮み指向」みたいなのがあって面白い。外見は小さく、軽く、内容は深く、と意識しているように聴こえる。細やかな多層構造になっているようになっているようで、僕はこの曲が大好き。

ドゥダメルとボリバル・ユースは面白かった。なぜもてはやされるのかわかる気がする。1曲目は「ダフニスとクロエ」の第2組曲。ラヴェルのオーケストラ曲は輪郭を描くのが難しい。健闘していた。

そのあとのチャイコフスキーの「5番」は楽章が進むにつれて尻上がりに調子が上がる。リズムがひきずらず、テンポのメリハリがはっきりしてわかりやすいチャイコフスキー。4楽章ではオーケストラらしい大音量としゃきっとした制御性のある音響がいかにもかっこいい。その行き着く先は「グランドキャニオン」やスターウォーズの音楽になりかねないけど、今回の場合はチャイコフスキーにしては中身のある曲自身の構成が内側から支えていた、という感じがした。その意味で選曲が正解。

オーケストラの音色としては乾いてコンコンというような音。女房の言うには「楽器の違いもあるのでは」確かにそうかもしれない。ところで今回の演奏は極端に大編成のオーケストラ。いったい何人いたんだろう。チャイコフスキーの指定はトランペット2本トロンボーン3本のはずなんだけど、画面ではトランペットは少なくとも4人、トロンボーンは5人確認できた。その音量増に対抗できるだけの弦楽も増員されていた。

しかし、すばらしかったのはアンコール。「ウェストサイド」の「マンボ」はバーンスタイン本人の演奏よりも曲の本質をついていた。それにヒナステラ。ヒナステラの曲はどれもうるさくて暑苦しいだけだと思っていたけど、いやうるさくて暑苦しいのはその通りだけど、その上になにかあるという気がする演奏だった。ヒナステラを見直した。


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