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「Self-Reference Engine」読了 [読書]

円城塔著、ハヤカワ文庫JA。
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先月、うちに帰ったときに娘が貸してくれた。
読んでみて驚いた。最後まで読んだけどほとんど理解できなかった。

長編SFということなんだけど読んだ感じは、同じ名前がところどころ出てくる連作短編集というか、なんというか。

最近のベストセラー作家には珍しくちょっと固い饒舌な文体で、意味ありげな単語やふだんあまり見ることのない漢字が文章中にときどき出てくる。文章を追うことはできる。しかし、単語が組み合わされた文節になると頭に入りにくくなって、ひとつの文章ではなにを言っているのかわからなくなる。そして全体のストーリはほとんど理解できない。

リチャード、ジェームス、リタ、などの人間と、自然現象を演算機能として使う「巨大知性体」というイーガン風の超コンピュータたちが登場するが、それぞれ別の話が並列しているようにしか見えない。おかしい、もっと難解だと思える文章を読んでもここまでわからないのは少ない。

読んでいて何となくわかってきたのは、ひとつはなぜだか文章からイメージがほとんど喚起されない、ということ。小説なんて文章が理解できなくても、そこからイメージが沸き起こされればわかったような気になって読み進められるものである。そしてもうひとつ、なんだか行き当たりばったりに書きながら次を考えているように読めるということ。

単語はハードSF的な数学物理学に出てくるものや何らかの概念に結びついたものが頻出する。他にも「ユグドラジル」「プラトン」「エウクレイデス」「ペンテコステII」などの強い固有名詞も出てくる。出てくる単語の意味はわからなくてもその印象は強烈に残る。しかし単語から文節、文章とだんだん大きな部分を眺めるようにするとどんどんイメージが希薄になる。

例えば、と切り出してみると
「何でもという言葉は慎重に扱わなければならない。例えば巨大知性体は、自分には動かせない石を作り出し、そしてそれを動かしてみせる程度には何でもできる知性規模を誇っている。全能の神がそうできるように。何と言っても彼は全能なのだから」
なにを言っているのだこの文章は?意味不明とかなんとか言う以前に、そのイメージを描くことができない。

また「巨大知性体」がなんだかすごいらしくて時間を行き来したり過去を改変したりできるが、それではあきたらず「知性階層を三十ほど貫い」た世界の「超越知性体」というのも登場する。もうこれは、単なる言葉のインフレであってその「超越」さかげんが伝わってこなくてぜんぜんイメージできない。

プロローグを含めると21編の短編というか章というか、が並んでいるけどそのタイトルはすべてアルファベットの単語でそのほとんどは英語なのもかえってイメージの喚起を阻害する。日本人の僕が見るとアルファベットが並んでいるのは均質で平板に見える。これならむしろない方がいいくらいだと僕には思えてしまう。まさか70年代生まれの人が欧米コンプレクスを持っているとは思いたくないし。

また、床下に二十二体の「フロイト」が横たわっていたり、「こんにちは。アルファ・ケンタウリ星人です」と超越知性体が語りかけたり、「八丁堀」と言う名の巨大知性体が「サブ知性体ハチ」をつれていたりと、口先からでた言葉をそのまま書き連ねたかのような行き当たりばったりさも、話がいったいどこへ向かっているのか読んでいて全然わからなくなる原因のひとつ(「アルファ・ケンタウリ星人」は書くほうもつらかったみたいだけど)。もともと僕が、考えながら書くタイプの作家の多く(例えば真っ先に思い浮かぶのが井上ひさし)を理解できないというせいもある。

誉める貶す以前によくわからない、という小説に出会うというのはそれほどなかった。解説を読むと「神林長平のオマージュ的要素がそこここにある」そうで、僕は神林をまったく読んでないのでよけいわからないのかもしれない。若い人たちはこういうSFを読んで神林のフレーズを見つけては「はは、なるほどね」とか言ってるんだろうか。ギャップを感じてしまう。

それでも僕にもわかる短編があって、例えば蔵の中にある一辺1mの寄木細工の箱を、年に一回縁者が集まって移動させる話や、26人の数学者が独立にかつ同時にひとつの定理の論文を書くという「A to Z Theory」は僕でも面白かった。ただし、「A to Z Theory」は(たぶんAharonov-Bohmに後ろを繋いだところで思いついたんだろうけど)後半にでてくるモリアーティ教授の話やB to Z、C to Z...というのはまったくの蛇足にしか僕には思えない。

ところで、「17:Infinity」の最初にある4次元球の半径の式は間違っている。正しくは
もとは\sqrt{R^2-t^2}
ハードSF作家ならディメンジョンくらい合わそうぜ。
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