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「数と図形」読了(動画付き) [読書]

ラーデマッヘル/テープリッツ著、山崎三郎/鹿野健訳、ちくま文芸文庫。
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かなり古い本らしいけど、楽しんで読んだ。テープリッツさんてテープリッツ行列のテープリッツさんかな。
今日は早いめに帰って時間があったので関連動画を作った。

初歩的な数学だけを使って、まとまりがよくて、しかしそれほど自明ではない数学のテーマについて話をする、というのは難しい。ひとつの話から始めても、そのために必要な定理を証明しだしたり、さらにそれに必要な概念を説明したりと、どんどん膨らんでしまう。この本では解析学やベクトルなどは使わずに、幾何学の問題であればユークリッドの範囲だけを使って、しかもひとテーマに文庫本1〜20ページぐらいで起承転結をつける、ということをしている。これは数学全般にわたる広い知識とセンスに裏打ちされていないと、なかなかできるものではない。

全部で22章に別れていて(aとbのふたつの章になっているのもある)それぞれがひとまとまりの話になっている。話題は大きくわけて数論に関するもの、図形に関するもの、およびその他の話題である。その他の話題には無限集合の話(1対1対応による濃度の比較)やグラフ理論の基礎(鉄道での車両編成の単純化)、4色問題などがある。

必要な知識は高校1年生の数学程度で十分で例えば、極大極小問題を扱った章がいくつかあるが、どれにも微分は使われずユークリッド的な証明の進め方で議論されている。ユークリッド幾何学だけによる証明はかなりまどろこしい場合もある、というかたいていごちゃごちゃしてしまう。しかし、代数変形よりも図形に補助線を引くなんて言う方が、数学の話を電車の中で追いかけるにはちょうどいい。ベクトルで証明されると、紙に代数変形の過程を書きながら追えば理解できるが、ただ読んでいるだけだと、ふーん、で終わってしまって理解できたという感触は得られないだろう。

先日読んだ本は手元に図鑑が必要だったが、この本は思考力と集中力さえあればどこででも読めるようになっている(が、どちらも歳をとると手に入れることが難しくなる特殊能力ではある)。

僕は整数論が苦手で、それがテーマの章は読んでいると字面だけ追って頭に全然入らない、ということが多く、何度も読み直すことになった。整数論は難しい。解析では1/10と百万とπとeと、などなど特定の数に対して別々の扱いをする必要はない。それらを数直線上に並べれば違う位置になるが、ある場所が特別ということはない。もちろん例えばeにはベキ関数の微分がそれ自身に等しいような数、という特別な意味があるが、その数の2倍や2乗の場合にどうなるかはeの性質からすぐ見つけることができる。

ところが整数論では3と6と9(3の2倍と2乗の数)とは全然違う性質を持っていてちゃんと区別しないといけない。例えば最後の章では「30」という数は「互いに素な数がすべて素数になる数の中で最大のもの」であることを証明している。30はこの意味で「特別な数」である、というのである。ほんとうに、なんと恐ろしいことか。

僕には「点集団の最小包囲円(2点間の最大の距離がdの点の集団を囲む最も小さな円の半径を計算する)」、「有理数による無理数の近似」、「初等幾何とコンパス(円を円に直線を直線に対応させる写像のうち、対応する円の中心がお互い異なる点になる写像はあるか)」なんかが面白かった。

そのほかにはリンク機構の話「リンク仕掛けによる直線運動」が特に気に入った。この話は機械屋さんにはよく知られているのかもしれないけど、僕はこれを読むまで知らなかった。ワットの蒸気機関の時代、ピストンは正確に直線運動させないとカジってしまって壊れる、かといってフリーにしていたのでは動力を取り出すことができない、そこで直線方向にだけ動ける機械的な機構を作ってピストンを保持させたい、というのがそもそもの目的で、リンク機構だけを使ってそれを実現しよう、という話である。ワット自身は直線運動できるリンク機構を近似的にしか達成できなかった(実用的には十分だったらしいけど)。

ポースリエのリンク機構

長さの決まった棒が軸の周りに回転できるように固定されている。これをリンクと言う。リンクがひとつだけならその先端は、軸の周りをぐるぐる回ることしかできないが、リンクの先端に別のリンクの軸を固定するというふうに、リンクをいくつか組み合わせると複雑な動きをさせることができる。

例えば長さLのリンクひとつの一方の端を固定すると、もう一方の端は半径Lの円周上を移動できる。その自由な端にもうひとつ長さLのリンクの端を固定すると、その反対側は半径2Lの円の内部のどこにでも位置できる。ピストンの保持のためには自由度が多すぎてはいけない。

数学的には、そのリンクだけを組み合わせてそのどこかの点がつねに直線上にあるような運動が作り出せるか、という問題である。行き当たりばったりなヒューリスティックな方法では解にたどり着くことは難しい。ワットがたどり着けなかったのは無理もない、と言う気がした。

この本には「反転器」という、膝ポンもののアイデアが載っている。これが実に面白い。なかなかこれを思いつくのは難しいけど、円と直線を対応させる簡単な写像で実現できる、という説明は数学になじみのある人にはわかりやすい。これを最初に実現したのがポースリエ(Paucellier)という軍人だったそうで、これをポースリエの反転器と呼ぶらしい。軸のガタを減らせば理想的な直線が実現できるということになる。

作ってみた

ということで二通りの方法でポースリエのリンクを作ってみた。まずMathematicaでバーチャルに絵を描いた。ひとつのリンクは平面上のふたつの点を結びつけるひとつの方程式に対応する。いくつかのリンクの組み合わせは、それぞれの方程式を連立させればいい。2次式の連立方程式になるのでリンクの数が増えると代数的に解けなくなる。Mathematicaを使って力ずくで解析解が求められるのはリンクが5〜6個ぐらいまでである。

ポースリエの反転器は固定軸が2個と自由軸が4個あるリンクを7個持っている(変数8(=4×2次元)個と方程式7個なので自由変数がひとつ残る)が、ふたつの部分に分解できるので一般解が手に入る特殊な例である。一般解は16通りできる。2個の固定軸をy軸にそって並べると、左右反転の解があるので実質的に8種類でさらに、パラメータ(リンクの長さ)によってはある解が無意味になったり、ふたつのリンクが重なったりするので、そのすべてがポースリエの反転器を表すわけではない。その一般解のうちひとつに関して実数解が存在する範囲でだけ、ひとつ残った自由変数を変えてリンクの絵を描いた。このムービーの軸の位置は解析的に得られた解(平方根を含んだ大きな式になる)を数値評価して描いている。

それとは別に、実際に動くフィジカルなものを作ろうと思った。厚紙とハトメのようなものでできると思ったけど、今回は先日のレゴTechnicで作ることにした。レゴTechnicだと長さはかなり正確(1mm以下の精度)だけど軸の剛性は高くないのでへろへろしている。奥行き方向に多重化すればしっかりしたものにできるけど、部品がぜんぜん足りなかった。同じものが大量に必要になる。

Mathematicaの絵とレゴを動かしたところをムービーにした。



ブログのページは横幅が決め打ちになっていて狭い。収めるために画素数を減らさないといけない。YouTube動画へのリンク。なんて、画質にこだわるような絵ではないけど。それから、レゴの色がバラバラなのも部品が足りないせいである。それと、そもそも僕に色のセンスがないせいである。ところで今気がついたけど、もうすでにパジャマの上にガウン替わりのバスローブを着てることがわかってしまった。

どちらも案外簡単にできたけど、時間がかかったのはムービーにまとめる手間。こういうのって、Mathematicaにしてもレゴにしても作ってるときが楽しくて、できてしまうと、まあこんなもんか、で終わってしまう。さらにムービーにするのは面倒な作業でしかない。なかなか難しい。

ところでレゴはこれからこう言う遊びに使うことにしよう。そうすると足りない部品がまた欲しくなるんだよなぁ。
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