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またやってしまった... [日常のあれやこれや]

またいつもの僕の悪い癖が新しい会社で出てしまった。新しい会社でレーザ応用製品の光学調整のための自動調整機を作ることになって、外の設備屋さんに丸投げの格好で発注されていた。それは僕が入る直前で、発注されてから僕に光学的な部分をチェックしてくれ、なんて言われて僕は素直に仕様書なんかを眺めていた...

驚いたことに設備屋さん向けの仕様はかなり曖昧なもので、設備屋さんから出てきた図面は手書きのラフスケッチ程度の「だいたいこんな感じ」というようなさらにいい加減なものだった。なかみが全然わからないので設備屋さんに説明してもらうための打ち合わせも持った。しかし、なかなかディテールがどうなっているかわからない。

製品の光学的な調整をする装置で当然光学系が主体なんだけど、いったい何を基準に調整するのかわからない、調整する側の光学系もそれ自身をどうやって調整するのかもわからない、なのに5軸の超精密ステージが2台並んでその間をロボットが行き交う豪華なメカが2400x1800mmの光学定盤いっぱいに広がるという、総額3千万近い設備になっていた。

それで出来上がったあかつきにはちゃんと動くんなら文句は言わなかったんだけど、どう考えてもまともに動きそうになかった。例えばビームの倒れを0.1mradの精度で調整するためのミラーは、その裏面が焼きの入った鉄球で直接機械的に一点受けされて、細目のネジでほかの2点が押されてあおられるようなメカにするという説明を受けた。わかる人にはわかると思うけど、そんな構造はミラーの裏面が削られるだけで、「あおり調整機構付きミラー」ではなくて「ガラス粉末製造機」にしかならない。

「それではうまく動かない」というと設備屋さんは、知らないやつが後から来ていちゃもんをつけやがって、という顔をして「すでにこれで承認をもらっている」と言って、それで話はおしまいという態度だった。今さらガタガタ言うな、ということである。一事が万事そんな調子で、はっきり言えばあまりにお粗末。話を聞く限りでは調整の具体的な手順(光学ではアラインメント・ストラテジ(Alignment Strategy)なんて大げさな言い方をする)がなくて、自由度がいっぱいあればなんとかなる、と考えているフシがあった。仕様を出す方にも問題があるが、思いつきでやってる素人どうぜんの設備屋はかなりひどい。僕は見るに見かねてとうとう

「これは間違いなく百年かかっても動かない。僕なら1千万で動作するのが作れる」

と言ってしまった。僕がそうぶちかましたのは設備屋さんを返した後だったし、もちろんここまではっきりは言わなかった(でも言ってることはすなわちこの通りだった)。だいたい僕はあんまり仕事にわざわざ波風を立てるようなことを持ち込むのは好きではないんだけど、入社してまだ1ヶ月で、つい存在価値をアピールしたかったのかなあ、と後になって自己嫌悪がじわじわと湧いてきた。

ところがそのとき資金繰りに頭を悩ましていた社長は僕のぶちかましに飛びついて、その設備屋さんを即日キャンセルしてしまった。おかげでかなり正確に話が設備屋さんに伝わって、面と向かって言ったのとたいしてかわりなくなってしまった。そういうドタバタをやったあと、光学まわりは僕が構想を作って、その後たまたま見つかった別のメカ専門の設備屋さんにロボットやステージまわりをまとめてもらって、キャンセルした設備屋さんの発注済みの部品なんかが再利用できるかどうか検討する、ということを続けている。

実は、仙台でも以前、似たようなことを一回やってしまって、そのときの威勢は良かったんだけど、結局ただ自分の仕事をむやみに増やしただけで、苦労したけど動いて当たり前、出来上がったときにはみんないきさつを忘れていて、なんであんたがやってるのと訊かれるという、つまらない経験をした。まあ、どっちみち今回はその3千万の設備が出来上がってきたらこんどは、これを動くようにしろ、という話にどうせなるので、それよりはまだマシだろうとは思える。

こういう風に書くとなんだか僕が派手好きで、威勢のいい「ええかっこしい」のように見えるかもしれない。でもそうではなくて、ではなんでこんなことを後先考えずにやるかというと、これまで光学の仕事をしてきた結果培われた最適化癖が原因だと自分自身では思っている。

そもそも、無駄な自由度のあるのが我慢ならない。たとえば光学系全体を定盤に対して平行移動するような自由度はむしろ殺さないといけない。そして光学ステージは高価なので、あっというまに費用がかさんでしまって、すぐ2倍3倍になる。しかも自由度が多いと光軸高さがどんどん高くなる。光軸の高さは安定性に直接結びつく。高い光軸には本能的に嫌悪感を感じてしまう。定盤上から光軸が300mmを超える光学系は、考えただけでも耳の後ろがぞわぞわする。ああ、嫌だいやだ。つまり僕にとってこういう反応はパブロフの犬が唾液を分泌するようなものである。


今回の装置は光学的な調整をするので、光センサやカメラを使うことになる。なるべくシンプルにするために生のデータをすぐA/D変換して処理はソフト的にやるのが正しい。ということで光学特性の検出は僕が書いてそのデータを制御系のシーケンサ(か、あるいはPC)に渡す、ということにした。僕が書くからには当然Cocoa/Objective-Cで、Mac miniをヘッドレスで使ってシーケンサへはUDPでデータを垂れ流す、ということで今のところ考えている。でもまだメカ構想の段階で、データのやり取りはこれからになる。

ということでこのためにまた大量のコードを書くことになった。しかもこれとはまた別に、僕が先月設計したレンズを、金型製作からガラス成形してもらうメーカで評価できるように、干渉縞から評価パラメータを計算するソフトを書く約束をしてしまった。そこも零細企業で干渉計はアナログカメラが乗った古いものしかない(「新しい干渉計は買えないけどMacぐらいなら買えます」と言われた)。アルゴリズムは頭の中では確定してるんだけど、約束はしたもののアナログデジタル変換をどうすればいいのか、アイデアがまだない。20年前なら簡単だったんだけどなあ。
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jun hirabayashi

 ファインマンのエッセイみたいで面白いです(舞台がロスアラモスやNASAじゃなくて、横浜近郊らしい…という違いはあれど)。
by jun hirabayashi (2014-06-10 21:06) 

decafish

コメントありがとうございます。
楽しんでいただけたのならうれしいのですが、ご冗談でしょう、ノーベル賞物理学者のエッセイと比べられては、困ります、えっと、あと何がありましたっけ?

しかし自らバカな事態を招いては自分でおもしろがっている、というのは似ているかもしれない、と自分でも思いました。
ただ、そのあと天下の物理学者はちゃんとオチをつけますが、横浜の年寄り技術屋の場合はぐだぐだと泥沼にはまって、なにがなにやらわからなくなる、という大きな違いがありそうです。
3ヶ月ほど経てばその後どうなったかがわかると思いますので、楽しみにしていてください。

ただし、僕はボンゴは叩けませんがギターなら弾けますので、それでごまかすかもしれません。Fourierモデルとしてはボンゴは2次元ですがギターは1次元ですみますし。なんのこっちゃ。

ああ〜あ。ほんとにどうなることやら....
by decafish (2014-06-10 21:57) 

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