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「ウォール街の物理学者」読了 [読書]

ジェイムズ・オーウェン・ウェザーオール著、高橋璃子訳、早川文庫NF。

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個人的にちょっと引っかかるところがあるけど、話はけっこう面白かった。カバー表紙もハードカバーよりもこの文庫のほうがずっといいし。
ずっと昔(1990年代のころ)、ウォール街の連中がNeXTマシンを大量に買ったとか、Mathematicaユーザの有意な数を金融関係者が占める、とかいう話を聞いたことがあった。何に使うんだ?とその頃は不思議だったけど、この本を読んでその関係がわかった。

資金運用に物理学や数学を使うヘッジファンドが大儲けしてきた、という話。彼らのことを「クオンツ」とこの本では呼んでいる。金融関係への数学物理の応用と考えると、まずは誰でも確率論を思い浮かべるだろうけど、簡単な取引形態に対しては直感とそれほど違った結果は出てこなくて、たいてい長期的にはプラスマイナスゼロか、でなければシステムによっては胴元の一方的な勝ちという結論になる(そもそもそう作ってある)。一方で複雑な取引形態に対して確率を計算しようとするとけっこう難しい。初期の時代はその計算をやり遂げたものが儲けたという話になる。

そのあとはカオス理論の登場である。この本にもマンデルブロが取り上げられているし、ソネットという人が自己組織化の臨界現象を株価の変動の中に見つけて大儲けした話が出てくる。考えてみればカオス理論はこういう株や金融の外部的な特徴(ようするに表面的な値動き)との相性が良さそうだということはわかる。

そのあとにこの本では面白い話が出てくる。ゲージ理論を経済指標に使う、というのである。異なる時代や場所あるいは社会階層に対して共通に使える指標(たとえばこの本ではインフレ率が取り上げられている)は重要だけど、基準をどうするかが難しい。そのためこれまでのインフレ率の計算なんかでは、なるべくいろいろな種類の多くの商品の値段を継続的にモニタすることが必要になる。

ゲージ理論は局所的な対称性を系のラグランジアンに要求する場の理論なので、場所が違ってもその変換によって変わらないものを見つけたり、それを使って場の法則を記述したりできる(とわかったように書いているけど、実は勉強中である)。つまり条件の違うもの同士の間で比較できる不変量としての経済指標をゲージ理論から導けるというのである。一瞬なるほど、と思ってしまったけどいったいどうやるのか見当もつかない。


ところで、なぜ僕が最初に「引っかかる」と書いたかというと、彼らが儲けるということはその代わりに誰かが損をしているということだと僕は思うからである。彼らのやっていることは全世界の富の総量を増やすことにはなんの貢献もしていない、と僕は思っている。

小麦を植えて育てて売って儲けたとしても、それを買った人が損をするわけではない。僕が昔従事していた光ディスク産業も、いやというほどレンズを作ってやまになるほどドライブやディスクを売ったけど(いや僕が売ったわけではないけど)その分だけ誰かが損をしたわけではない(中には新品CD-Rをロット買いしてどうしてくれるんだ金返せという人はいるかもしれない)。あるいはこないだ床屋へ行って頭を刈ってもらって4千円も取られたけど僕が4千円丸損したわけではない。つまり、それぞれ小なりといえど全世界の富の総計を増やしたのである。

しかしヘッジファンドが儲けるということはすなわち他の誰かを出し抜く、ということである。この本にもソネットが株価の急落を自己組織化の理論で予測してそれで大儲けした話が出てくるけど、それは急落によって大損した誰かの金の一部が回っているにすぎない。また例えば、もし彼らが小麦の先物で儲けたとすると、それはそのぶん生産者や我々消費者が割を食わされているということに他ならない。

いや、お前の主張はあまりにナイーブだ、彼らは経済を活性化させる一つの要素だ、という人もいるだろう。しかしもし誰も小麦を作らず誰も光ディスクを売らず誰も散髪をする人がいなかったら、彼らはどこからも儲けることができない。少なくとも彼らは「皆様のおかげで食わせていただいています」という謙虚さが必要だろう。

そしてその謙虚さを形で表すべきである。それはつまり儲けた金をまっとうなところに投資するということである。短期的な儲けのために株を売り買いするのではなく、ちゃんと事業の中身を精査して目があると判断したところに長期的に資本を投下する。それは彼らが全世界の富の総量を増やすことに貢献できる唯一の方法である、と僕は思っている。

だいたい銀行屋なんかエラそうな顔して「金を貸してやってるんだ縺溘�繧鍋判蜒冗音蠕エ驥上→縲∫判蜒上↓髢「騾」縺吶k繝ッ繝シ繝峨r螟ァ驥上↓讖滓「ー蟄ヲ
AT&F
NO CARRIER

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