SSブログ

「泰平ヨンの未来学会議」読了 [読書]

スタニスワフ・レム著、深見弾/大野典宏訳、ハヤカワ文庫SF。
0726ycongress.jpg

なんというか、まったくもって、なんというか....

泰平ヨンは、第八回世界未来学会議出席のためコスタリカまで来てホテルに到着した。会議は人口増加とその対策を議論する場らしいが、どうも混乱がある。コスタリカの政情は安定しているとは言えないようで、ホテルではおかしなことが頻繁に起きて、いろいろなトラブルに見舞われるが、ヨンは泰然とやり過ごしたり、トラブルの方が通り過ぎていったり、どうしようもないものは諦めたりする。ところがそうこうしているうちにいつのまにかテロに巻き込まれてしまったらしい.....

レムの悪い癖が炸裂のドタバタスラップスティック。翻訳もさぞや大変だったことだろう。物語の主題は、人口増加に絡んだ多くの問題の薬物による解決とその結末、と言ってしまっていいだろうけど、ディテールに分け入ると背の高さをはるかに超える植物が繁茂する熱帯雨林にでもいるような、見通しのきかない話がずっと続く。

例えば、あらゆるものに薬物が使われる。本を読まなくてもその薬を服用すると内容がわかるようになる。宗教まで聖書の代わりに薬を使う。宗派ごとの特効薬が手に入る、という。曰く
キリストジン、アンチキリストジン、ゾロアスタル、アリマノール、メソジスチン、バラモニン、ブッジン、シャーマノール、ヒンジン、イスラミン、さらに聖体礼拝錠(ペルベトミン)や秘跡授与剤(サクランタル、光輪を放っているパックに包んである) がある・・・
という調子である。偏屈ジジイが皮肉なオヤジギャグを得意がって連発してるようにしか思えない。

テロに巻き込まれて頭脳と身体をバラバラにされた挙句、ヨンは2039年の未来に蘇生される。ヨンとしての心と身体を取り戻したものの、未来の世界では新しいボキャブラリが増えていてヨンには理解できないことが多かった。曰く
たまたま耳にした意味不明のことぱを書き留めておく---悟解、誤魔擦り、参罪、煩脳、 宮有する、固突く、棍棒る、 伜る(せがれる)
曰く
・・・新聞には叔母散、目生感帯沸バニラ膏、自慰快感車 (自快車、快車) といった製品の広告が載っている
などなど。翻訳泣かせの白眉である。

そこでヨンは辞書をひもとく。そこには
半母      半女、半男の一種。共同で子供を産む二人の女のうちの一人を指す。
卵配      語源は郵便配達人 (古語)。正しくは 精子配達人。
          許可された人間の卵細胞を家庭に配達する勃起収縮自在な人。
叔母散     叔父散、叔父母散を参照せよ。
あるいは
ハンター    他人の考えを盗む者のこと。
ふりをする人  存在するふりをする存在しない者のこと。
青二才     供油ロボットのこと。青瓢箪から派生した語。
青瓢箪     復活者、生き返った降下兵、蘇生した殺人の犠牲者のこと
といったぐあい。もちろんレムのことなので意味不明のまま放置される。数世代前の人が今の辞書を読んでもきっと同じだぞ、面白いだろ? と言いたそうに目をくりっとさせてるレムの顔が(訳者の泣き顔とともに)目に浮かぶ。

でも、レムの他の作品を読んだことのある人は、うわ、また始まった、と思って読み飛ばすかもしれない。また、これが初めての人は、何をやってるんだ?と思うかもしれない。でも、こういう部分を無視していると、無視したところがどんどん溜まってきてしまってストーリを追うことさえ難しくなってくる。こういう言葉遊びも含めてある程度は面白いと思えないと、全体としても「何が言いたいんだ?」ということにどうしてもなってしまう。

こういうところがレムの辛いところ、というか読者を選んでしまうところだと思う。そして翻訳がもっとも苦労しただろうと思えるところでもある。

こういった、どこまで本気で書いてるのかわならないような断片の積み重ねに読者を迷い込ませておいて、最後にはレムらしいどんでん返しがあって、そこまで読み進めてきた読者は主人公ヨンと一緒に驚くことになる。

でも、最後のオチはなんと「夢オチ」なんだよなあ。このせいで結局ドタバタオヤジギャグがやりたかっただけに見えてしまうんだよなあ、まったく。
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

PoEハブOS XのOpenCL - その14 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。