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「明日と明日」読了 [読書]

トマス・スウェターリッチ著、日暮雅通訳、ハヤカワ文庫SF。
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腰巻には惹句が踊っているが、僕にはイマイチだった。ただ、ディック、ギブソン、バロウズというのは雰囲気としては否定はしない(ちなみにバロウズはもちろん「ターザン」じゃないほう)。しかしいつもの僕にしては読み終わるのにすっごい時間がかかった....

ピッツバーグという百万都市まるまるが核爆弾(らしきもの)で蒸発して10年。ドミニクはそのピッツバーグで妻テレサとその胎内の子供を失うが、自身はたまたま離れていたため生き残った。妻を忘れることができず、「アーカイブ」と呼ばれる在りし日のピッツバーグの仮想現実に入り浸り、アーカイブから離れれば薬に頼って、精神科医にかかりながら保険のための調査を仕事にしてかろうじて生きていた。

彼は仕事で不審な死を遂げたある女の調査をしていたが、そのさなかに個人的な要請を受けて別の調査を開始する。そしてその依頼主から「アドウェア」というデバイスの最新版を手にいれる。アドウェアは脳に直接情報を送り、視覚聴覚像として認識できるというものである(らしい)。やがてそのふたつの調査の思わぬ結びつきにドミニクは気づき、心ならずも連続惨殺事件の犯人に迫ることになってしまう....

ピッツバーグがなぜ消滅することになったか、というのは最後まで語られない。ピッツバーグの「終末」後の精神的に荒廃した世界が描写される。モデル上がりの女性大統領がショー仕立てで死刑執行を実行してそれが配信され、殺人事件の被害者の過去が面白半分によってたかって暴かれ、それらがすべてネットでリアルタイムに不特定多数によって享受され捨てられる。またなぜかドミニクの関係者のほとんどが自称も含め詩人著作家芸術家アーティストばかりで、周辺に浮ついた雰囲気がつきまとっている。

ギブソン風の世界を描きながら、ギブソンのスピード感はなく、主人公ドミニクの後ろ向きな気分がずっと物語全体を占めていて、ナマケモノのような思考力が止まる寸前の、活力が低下しきった雰囲気でほとんどが終わってしまう。特に前半は非常にチンタラしていて話が進まず、読み進めるのが面倒になってしまった。

アーカイブは「電脳コイル」的な視聴覚像が保存されたものらしいが、誰もがフリーにアクセスできるわけではないらしく、ドミニクは保険調査の名目を使う、というかアーカイブにアクセスしたいがために保険調査をしてるという設定らしい。面白いことにドミニクの世界では、意図しない「バグ」のようなものの描写が全くなされない。ちょっと気恥ずかしい。

また、アドウェアはこの手のSFにありがちなガジェットだけど、それが必要な情報以外に視覚の隅なんかに広告やリコメンドを表示する。それが新機軸と言えなくはないけど、今あるブラウザのあちこちに出てくる動画広告そのまんまで、ギブソンのポップな感じに比べると、卑近で安っぽい印象がある。視界にいちいちそんなのウザイだろ、AdBlock使えよ、と思ってしまう。でもそういった現在との地続きさ加減はいかにもSF的だと言えるかもしれない。

物語では、ほんのわずかな情報や思いつきがたまたま結果的には本質にせまるという場面がなんどかあって、んなアホな、という感じがしてしまう。推理小説なんかでときどき見かけるパターン(重大な場面になると必ず主人公がその場にいるとか、当てずっぽうの推測から重要な結論に飛躍するとか、パスワードを2、3個試しただけて当てるとか)だけど、こういうのは読んでいて乗り切れない原因にもなる。

最後は連続惨殺事件が巨悪の暴露につながったり、ピッツバーグの原因に迫ったり、ということはなく(そうなるんじゃないかと思いながら読んでたんだけどそうじゃなかった)、いくつかの伏線が回収されるべくして回収され、それ以外は放置、という結末を迎える。はっきり言って食い足りない。

ピッツバーグの原因が語られないことからわかるように、物語としての論理性は顧みられない。最後にドミニクの命を助けることになる真犯人の心変わりの理由も読んでいて全く納得できない。

つまりは推理小説風のお膳立てを使いながら、全体としてはドミニクの黄昏た気分に憑依されて世界を眺めるという構造になっていて、ピッツバーグが蒸発したということそのものが重要でその原因はその事実の前では無意味ということらしい。そういう雰囲気を僕は物語としては嫌いなわけではないけど、なーーんかどーーでもいーいーもんねーー、という読後感しか残らなかった。もうちょっと何かひとひねり欲しかった。

「ひねりなさいひねりなさい」
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