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ガウシアンビームの光学 - その5 [ガウシアンビーム]

ガウシアンビームを自由空間の波動方程式から導こうと言う話の続き。ちゃんと続いている。その1でHelmholtzの方程式を、その2でその解として平面波を、その3では$z$方向にはおおむね平面波的に伝播する近似を入れた近軸波動方程式を導いた。そして前回のその4では軸対称解を探すために方程式を変形した。

今回は、前回導いた軸対称な方程式の具体的な解を求めてみる。今日が一つ目の山場である....

2.3  ガウシアンビームの解を導く

2.3.1  解の形を仮定

ここで非常に恣意的に見えるけど、式-4:3の解として

\begin{equation} \psi_0 \propto F(z) \exp \left(- \frac{k r^2}{2g(z)} \right) \label{assumption} \end{equation} というのを考えてみる。$F(z)$と$g(z)$は$x$と$y$には依存しない(従ってもちろん$r$にも)ある関数で、その具体的な形を近軸波動方程式に代入することで決めよう、ということである。

なんじゃそりゃ、と言われるのは重々承知だけど、この形の解を方程式のほうから導くのは結構ホネで、おそらく最初に導いた人が似たようなことをやったんだろうと思われるので、とりあえずしゃーないと思って欲しい。

式の形を見てもらえばわかるように、気持ちとしては光軸($z=0$)付近に場の強度が集まっている形($r$が大きくなると指数関数的に小さな値になる)を期待している。$r$がなぜ2次なのかというと、1次では回転対称な解にならない(180°回すと符号が反転する)からで、従って回転対称でもっとも次数の低いのが2次だからである。

エクスポネンシャルの肩が2次の負に比例するということはもうすでにガウシアンを仮定してしまってる、とは言える。しかし例えば偶数次のベキを使ってもうまい解ができない。なのでベキの和を仮定して係数を決めたらエクスポネンシャルの展開が出てきただけ、となってしまうのはありがちである。他にないのかよ(いや、もちろんあるんだけど。それはまたあとで)。

ちなみに$r^2$のかわりに$|r|$を使えば回転対称になる。しかしその場合$z=0$で2階微分不可能になるので、波動方程式の解にはなれない(ちなみに、絶対値が必要になったときは、どんな場面であれ疑ってかかった方がいいというのが僕の経験である)。

その場の大きさはゆっくりだけど$z$に依存して($g(z)$として表してある。なぜ逆数になってるかというと、当然その方が途中で簡単になるという後知恵からである)、それに補正係数である$F(z)$がくっついているというイメージだと理解してほしい。ほんとうは$F(z) \equiv 1$だと簡単なんだけど残念ながらそうはいかない(解でないことはこのあとすぐわかる)。

実は、他の教科書も僕が知ってるものは全部本質的に同じことをしている。基本的にはここでは僕もそれらにならっている。ただし、数学的にはもっとすっきりしていなかったり怪しかったりするのがある。例えばすぐ見ることのできる教科書としてこういうのがあるけど、これでは、議論の後半で式をそのまま使いたいという意図があるせいで、このあたりの変形はかなりまどろこしくて怪しい計算をしている。これにあるような数学は僕はやりたくない。しかし英語の教科書ではこれと同じようなスタイルがあんがいたくさん見つかる。

まあ、結論さえ正しければ数学はそれほどうるさく言わない、という物理学にありがちなスタイルである。そういうのは無視して、とりあえず僕のやり方で続きを書くことにする。どちらにしても結論に違いはない。

また、あとでもう少し一般的な形でやりなおすつもりである。そのときはもっとスッキリした議論ができる予定であるが、ここでの結論を流用するつもりなのでお見逃しなく。

さて、この式の決定されるべき関数である$F(z)$と$g(z)$はまず、式の形を見ればわかるように$F(z)$は$\psi_0$と同じ次元(無次元)、$g(z)$の方は長さの次元を持っていることになる($k$が長さの逆数の次元なので)。

また、もし$g(z)$が$z$に依存せず定数になれば$x$、$y$と$z$は変数分離できるということになる。そうなるかどうかはこのあとすぐわかる。

これを近軸波動方程式に代入する。これからしばらく退屈な式の変形が続く。

まず \begin{equation} \frac{\partial \psi_0}{\partial r} = F(z) \frac{\partial}{\partial r} \left(\exp \left(- \frac{k r^2}{2g(z)} \right) \right) = - \frac{kr}{g(z)} \psi_0 \nonumber \end{equation} なので \begin{align} \frac{1}{r}\frac{\partial}{\partial r} \left(r \frac{\partial \psi_0}{\partial r} \right) &= \frac{1}{r} \frac{\partial}{\partial r} \left(- \frac{kr^2}{g(z)} \psi_0 \right) \nonumber \\ &= \left( \frac{k^2 r^2}{g^2(z)} - \frac{2k}{g(z)} \right) \psi_0 \nonumber \end{align} となる。従って近軸波動方程式は \begin{equation} \left( \frac{k^2r^2}{g^2(z)} - \frac{2k}{g(z)} \right)\psi_0 + \left( \frac{2ik}{F(z)} \frac{dF(z)}{dz} + \frac{i k^2r^2}{g^2(z)}\frac{dg(z)}{dz} \right) \psi_0 = 0 \nonumber \end{equation} となって$\psi_0$は恒等的に0にはならないので、残りを$r$について整理すると

\begin{equation} \frac{k^2}{g^2(z)} \left( 1 + i \frac{dg(z)}{dz} \right)r^2 + 2k \left( \frac{i}{F(z)} \frac{dF(z)}{dz} - \frac{1}{g(z)} \right) = 0 \label{assumedequation} \end{equation} である。この式に入ったナマの$r^2$の項と定数項($r^0$の項)は、それぞれの係数が0になれば式を満たすことになるので

\begin{align} \frac{dg(z)}{dz} &= i \nonumber \\ \frac{dF(z)}{dz} &= -\frac{i F(z)}{g(z)} \nonumber \end{align}

となる。ひとつめの式はすく積分できて

\begin{equation} g(z)= i z + z_R \label{characteristicterm} \end{equation} である。ここで$z_R$は長さの次元を持った積分定数である。$z$の1次に依存するので、残念ながら$z$方向に変数分離できるような形にはならない、ということになる。

ということで$g(z)$の逆数 \begin{align} \frac{1}{g(z)} &= \frac{1}{i z + z_R} \nonumber \\ &= \frac{z_R}{z^2+z_R^2} -\frac{i z}{z^2+z_R^2} \nonumber \end{align} となる。もし$z_R$が正の実数なら、このおかげで先頭の係数によって軸から離れる($r$が大きくなる)ほど場が小さくなるような解になる。さらに$z$変数に虚数単位がかかっているのかこの解のキモになることがあとでわかる。

ちなみに、この積分定数$z_R$が負だったり複素数だったりしてもとりあえず解になる。しかし負の場合は光軸から離れるに従って場の大きさは増幅して無限遠で発散するので、普通これまでは物理的に意味がないとして捨ててきた。しかし最近、メタマテリアルの議論のようにエネルギー保存の法則を破っていなければ、面白い結論が導けるかもしれないとむやみに無視しないような機運があるような気がする。

実際には、なかなか本当に面白いものが出てくることは少ないけど、例えば無限遠で発散する解をいくつも重ね合わせることで、無限遠でちょうど0になって有限の領域では有為な値になるようにすることができる場合もありえる。収束性の微妙な議論が必要になる可能性もあるけど、そういう検討をしてみてもいいかもしれない。僕はやらないけど。

ちなみに、僕は修士の頃、プリズムに全反射で光を入れて、そのエバネセント波で励起した金属薄膜の表面プラズモンが、金属表面の小さな凹凸で散乱されて、というのをやってて、その金属薄膜周辺の場を定式化しようとしたら、どうしても増幅する場(エバネセントとは逆の符号になる)が出てきてしまって困った。

先生に訊いたら「ゆっくりだったらいいんじゃないか?」なんていう話だった。どのみち無限遠では発散するんだけど、と思ったけどそのときはその場なしではうまくいかなくて、無視してしまった。

ずっとあとになって、存在する全部のモードを足せば無限遠ではちょうどキャンセルしそう、というのがわかったけど、もう詳細は忘れてしまった。


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