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エルサレム四重奏団「ショスタコーヴィチ弦楽四重奏No.1、4、9」 [クラシック]

昨日に続いてまた若手のショスタコーヴィチ。これもまえからこの話を書こうと思っていながら、震災にあって忘れていた。これもまた女房が買ったHarmonia Mundiの録音。どうでもいいけどこの数年夫婦二人して買うCDはほとんどがHarmonia Mundi。それ以外と言えばオーケストラのプライベートレーベルとかしかない。そういえばもう何年もドイツグラモフォンなんかの新譜って買ってないな。
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これは前に聴いた「No.6、8、11」よりも先に録音された、彼らのショスタコーヴィチとしては最初のもの。2005年の録音なのでもうずいぶん前になる。これもすばらしい演奏の録音である。

この3曲はショスタコーヴィチの四重奏の中ではどちらかというと調性的で聴きやすい曲。1番はまるでベートーヴェンの最初の方の四重奏みたいだし、1番の第2楽章*1や4番の2楽章はロマンティック。最後の9番はこのなかでは一番の大曲だけど、7、8個の断片的な要素がひとつずつ導入されながら変形展開して、最後にはすべてが統一されるという作曲技法のお手本のような曲で、フィナーレが終わるとカタルシスを感じることができる。

ただでさえショスタコーヴィチは「政府の御用作曲家」だったり「政治に翻弄された作曲家」だったりしたので、彼の音楽もそういう色づけをされて演奏されることが多い。そして弦楽四重奏には交響曲にも出てくる、悲鳴のような音色がところどころに出現する。これはショスタコーヴィチのトレードマークのように思われているのか、強調されて演奏されることが多い。「これはショスタコーヴィチの内面が噴出した音だ!」みたいに。

例えば第4番の冒頭すぐのフォルテシモは4つのパートすべてがそれぞれの楽器の最高音域で、しかもヴィオラとチェロはそれぞれ第2線(D弦)の解放弦を同時に鳴らす。これはたいていよくある「ノコギリを引くような音」になりがちな部分であり、ショスタコーヴィチがそれを要求しているようにも読める。それこそ「スターリンはこうやって人の首を引いて粛正したのだ!」みたいなことを言う人がいそうな音である。

先日のメルニコフでもそうだったが、彼らも若く、音楽以外の周辺情報で色付けされたショスタコーヴィチを積極的に避けようとしている。ショスタコーヴィチの楽譜をただ音符の配列として読み、純粋に音楽として発声しようとしているように聴こえる。

エルサレム四重奏団の演奏では、これまでにありがちだった鬼面人を威すというような刺激的な音色は丁寧に排除されている。さっき書いた第4番の「ノコギリ引き」のような部分も悲鳴のようにならないように、高い音は正確な音程で調和的に、耳鳴りのような解放弦は音量をやや押さえて極力ふくよかな音色になるように演奏している。

それはテクニックがなければ困難である。彼らはそれを実現するだけのテクニックの持ち主たちだけど、単なるヴィルトゥオーゾとしてではなくその持てるテクニックを高い制御性を実現することに傾けている。

例えば伴奏の協和音や複数パートのユニゾンのフレーズではほとんどビブラートをせず、音程的な調和を最優先させる。ショスタコーヴィチが書いた極端なクレシェンドを伴うグリサンドや、半音で衝突するピチカートも、正確な音程と響きやすい音色を使って刺激的になることを避けている。

その結果、何が現れたかというと、ショスタコーヴィチが内に持っていたロシア人としての土俗性みたいななものである。そしてそれはエルサレム四重奏団のメンバ自身も血肉として持っているものである。最初に「ロマンティック」だと書いた1番や4番の緩徐楽章は、まるでチャイコフスキーかボロディンの四重奏曲のように響く。ショスタコーヴィチも音楽の歴史の中に突然現れた継子ではなく、自国の民謡を聴いて育ち、自国の先人たちを研究して自らに取り込んでいった作曲家であるということを認識させる。

これは、先日のメルニコフと並んで新世代のショスタコーヴィチ演奏である。頼もしい。ショスタコーヴィチはまだ9曲残っている。僕の好きな7番なんかは特に楽しみ。だが、女房の話によるとヴィオラがベルリンフィルのプリンシパルに引き抜かれて新しいメンバに入れ替わったらしい。どうなるんだろう。



追記1:第1番の第2楽章のテーマは、前に彼が書いた映画音楽のテーマをまるまる流用したもので、その映画「女友達」を見たスターリンがその音楽を「饒舌」と評価した。この映画音楽はプラウダ批判「音楽のかわりに荒唐無稽」に繋がる遠因のひとつ。そしてこの第1番の発表はプラウダ批判の2年後。ショスタコーヴィチは瀬踏みしたんだな、「これが気づかれなきゃ、弦楽四重奏曲はOK」みたいな。いや、だからそう色付けはやめようって。
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