ショスタコーヴィチ交響曲第15番の調性/無調の話 - その3 [音楽について]
ショスタコーヴィチの交響曲第15番の話の続き。前々回と前回で第1楽章を一通り聴いた。演奏時間で7、8分のそれほど長くない楽章だけど、結構複雑な構造をしていることがわかる。
今日は第2楽章。第1楽章の第2主題で使われた12音的なフレーズがいっぱい出てくる....
第2楽章に入る前に、前回書き忘れたことを追加しておく。
いろんなものがごちゃごちゃと現れるようで、解像度を落として全体をざっくり見ると、マーラーのような肥大したソナタ形式とは違ってあっさりとした作りになっている、と僕は思っている。それを感じ取るためにも第1楽章全体をソナタ形式だと考えたほうが理解しやすいと僕は思う。
そのあともコントラバスの低音の上でチェロソロが続くけど、これもまた12音全部が1回ずつ現れる。 さらにそのあとも ここで初めて番号1のcis音(=des音)が重複して、番号9のA音と番号11のh音が抜けている。ところがそれを穴埋めするように、コントラバスがその抜けたaとhを(fisを挟んで)鳴らしている。ようするにこのソロチェロの部分では4回にわたって12音をまんべんなく鳴らすようになっている。
このあと、もういちち音符は描かないけど、冒頭(2-1)のブラスがちょっとだけ変形して繰り返されたあと、またソロチェロがイ短調になって12音まんべんなくが2回ある。こんどは音程の重複がいくつかある。
そのあとヴァイオリンのソロが何かを期待するようなフレーズ これはチェロの最初のフレーズと同じ思想でできていて、分散和音のように聴こえる(最初の小節はB♭maj9、次がA、次がB7-11と、1小節ごとの分散和音とみることもできて、なんとなくベルクを連想する)けど、番号7のg音がひとつ抜けた11音からなっている。
トリル付き持続音が徐々に下がっていって、ヴィオラによるe音に到達したあと、このフルートデュオのリズムをもらったトロンボーンのソロが明らかなイ短調で始まる。音価が半分になったように書かれているけど、ここからLargoにテンポが落ちるので付点音符のリズムが同じように聴こえる。 葬送行進曲のパターンを踏襲するような、パロディックなメロディで、すぐ遠隔調に転調するように不安定そうな動きをするんだけど、ベース音のせいで結局は調性感を保ったまま、さっきのフルートのデュエットを呼び出すようにロ短調に落ち着く。 ちょうど先のフルートとトロンボーンが混じったようなメロディになっている。
トゥッティが徐々におさまって、それまで出てきたメロディを思い出すように反復したあと、弦楽が本来の倍の10部にわかれて、静かな3声のホ短調テーマを鳴らす。 これはまた第5番のLargo楽章とそっくりに聴こえるけど、3声のうち1声は持続音で、残り2声は長六度を保って動くという、冒頭ブラスと全く同じ音程構造になっている。
またこれが属和音でひと段落するとチェレスタが単音で鳴る。これはソロチェロの最初のテーマの完全な反行形(音程が上下逆)になっている。チェレスタの低音から、例によってd音だけが抜けた11音からなるビブラフォンに受け継がれる。
ティンパニがトロンボーンの葬送曲のリズムを思い出したあと、突然完全五度音程のファゴットが鳴って第3楽章にattaccaでつながっていく。
12音の部分は調性がわかりにくい上に、ゆっくりとしていてはっきりとしたリズムがなく、とらえどころがないように聴こえるせいで、聴くだけでは構造が見えにくい。しかし12音が全部出そろうことで、区切りがついていて、他の部分もトゥッティを除いて、長くてせいぜい十数小節の塊(平均で8小節)が接する状態でつながっていることがわかる。
しかし12音と言っても音程の重複や抜けがあって、いわゆる「十二音技法」のようには徹底していない。その点は最後にもう一度見直す。
そして楽章全体は葬送風の部分を中間部にした三部形式っぽくなっている。主部が戻ってきたところで主題を反行させる(チェレスタの部分)のは、バルトークの「アーチ型」の形式に似てるけど、バルトークと違って主部の回帰は極端に圧縮されている。
ディテールの解析は別にして、全体の印象としては、第1楽章は生成と分解と合成が繰り返される知性が勝った音楽だったけど、第2楽章は孤独に深く思いこむような沈思黙考の音楽になっている。そのどちらももともとショスタコーヴィチの音楽の特徴で、それらがそれぞれ純粋な形で2つの楽章に昇華されている、と僕には聴こえる。
どちらも僕はすごく好きである。
今日は第2楽章。第1楽章の第2主題で使われた12音的なフレーズがいっぱい出てくる....
第2楽章に入る前に、前回書き忘れたことを追加しておく。
3.9 第1楽章の構造
日本語のWikipediaにはこの第1楽章の構造についてソナタ形式と説明されることがあるが、実際は自由な形式で書かれているとなっているけど、僕は前回前々回に書いたようにソナタ形式だと思っている。実際に展開部で新しい要素といえば、展開部の開始の3連符と、再現部を引き出す役目の譜例(1-13)その変形の(1-14)だけで、それ以外はすべて提示部の要素だけでできている。またその2つの展開部独自要素は再現部には一切出てこないで、コーダに3連符が現れるだけ、譜例(1-13)は役割からしてコーダにも出てこない。
いろんなものがごちゃごちゃと現れるようで、解像度を落として全体をざっくり見ると、マーラーのような肥大したソナタ形式とは違ってあっさりとした作りになっている、と僕は思っている。それを感じ取るためにも第1楽章全体をソナタ形式だと考えたほうが理解しやすいと僕は思う。
4 第2楽章
第1楽章と正反対に第2楽章は、見かけの構造ではずっとシンプルになっている。4.1 開始部分
まずこんなブラスによる動きの少ないテーマで始まる。 ホルンがCの持続音を、トランペットとトロンボーンが短三度の開きに固定されたまま半音階的な狭い音域で動いて、すごく硬直した、肩が凝った感じに聴こえる。4.2 独奏チェロのフレーズとその特徴
このブラスはヘ短調で始まってその属和音でひと段落すると、すぐチェロのソロが始まる。 これにも第1楽章のトランペット(僕は第2主題と書いた)と同じように12音の番号をふると、12音全部が一回ずつでたあと、またもう一回ずつ現れたことがわかる。聴いていても最初の方はヘ短調のイメージがあるけど、調性はどんどん分からなくなっていく。後半の12音にはヴァイオリンの和音がついて一瞬、協和音の響きがおきるけど、すぐチェロがその和音をわざと外すような動きをする。そのあともコントラバスの低音の上でチェロソロが続くけど、これもまた12音全部が1回ずつ現れる。 さらにそのあとも ここで初めて番号1のcis音(=des音)が重複して、番号9のA音と番号11のh音が抜けている。ところがそれを穴埋めするように、コントラバスがその抜けたaとhを(fisを挟んで)鳴らしている。ようするにこのソロチェロの部分では4回にわたって12音をまんべんなく鳴らすようになっている。
このあと、もういちち音符は描かないけど、冒頭(2-1)のブラスがちょっとだけ変形して繰り返されたあと、またソロチェロがイ短調になって12音まんべんなくが2回ある。こんどは音程の重複がいくつかある。
4.3 ブラスが変形する
さらに3回目のブラス(2-1)が現れる。また同じような硬直したフレーズかと思うと、そうではなく、 こんどは割とはっきりとバストロンボーンとチューバが四度上行(五度下降)のカデンツの動きを3回繰り返して、ホ短調の(六度が残った)属和音に落ち着く。解決しない非和声音を含みながら調性感がなんとなく保たれたような響きになる。これまでの2回と音色は全く同じなんだけど、声部がもう少し自由に動いて硬直が解かれた、どこかワーグナーを思わせるような感じもする。こういう微妙な違いもなんとなく意味深に聴こえる。そのあとヴァイオリンのソロが何かを期待するようなフレーズ これはチェロの最初のフレーズと同じ思想でできていて、分散和音のように聴こえる(最初の小節はB♭maj9、次がA、次がB7-11と、1小節ごとの分散和音とみることもできて、なんとなくベルクを連想する)けど、番号7のg音がひとつ抜けた11音からなっている。
4.4 2つの不協和音
このヴァイオリンに答えるように木管と金管が別々に和音を鳴らす。 聴くだけだとどちらも増和音ぽい似た響きなんだけどこれも、ふたつで番号6のfis音以外の11音が出てくる。この和音の合いの手のようにまたソロチェロが こんどはcis音とa音の2音が抜けている。4.5 中間部
この最後のh音がトリルになったのをきっかけに雰囲気がちょっと変わって、葬送行進曲風のフルートのデュエットに移る。 これは低音にh音があるので調性のはっきりした、ロ短調ではじまったように聴こえるけど、これも冒頭ブラスと同じように長六度音程を保ったまま動いていく。長六度はブラスのテーマに出てきた短三度音程の転回で、トリル付きのh音の持続があるので、頭のブラスと同じ構造で始まる。付点音符がどことなくマーラーを連想させる。トリル付き持続音が徐々に下がっていって、ヴィオラによるe音に到達したあと、このフルートデュオのリズムをもらったトロンボーンのソロが明らかなイ短調で始まる。音価が半分になったように書かれているけど、ここからLargoにテンポが落ちるので付点音符のリズムが同じように聴こえる。 葬送行進曲のパターンを踏襲するような、パロディックなメロディで、すぐ遠隔調に転調するように不安定そうな動きをするんだけど、ベース音のせいで結局は調性感を保ったまま、さっきのフルートのデュエットを呼び出すようにロ短調に落ち着く。 ちょうど先のフルートとトロンボーンが混じったようなメロディになっている。
4.6 トゥッティと締めくくり
もう一度トロンボーンとフルートが変形して繰り返される。そしてまたヴァイオリンの上行音と木管金管の和音が入る。ところが今度はブラス和音がクレシェンドしてトロンボーンのメロディを素材にするトゥッティに流れていく。この部分の低音はトロンボーンの葬送テーマを伴奏するチューバをなぞっていて、その弦楽の対旋律はこの楽章では新しい要素だけど、ディミニシュトスケールになっていて、 どこか聞き覚えのあるように聴こえる。トゥッティが徐々におさまって、それまで出てきたメロディを思い出すように反復したあと、弦楽が本来の倍の10部にわかれて、静かな3声のホ短調テーマを鳴らす。 これはまた第5番のLargo楽章とそっくりに聴こえるけど、3声のうち1声は持続音で、残り2声は長六度を保って動くという、冒頭ブラスと全く同じ音程構造になっている。
またこれが属和音でひと段落するとチェレスタが単音で鳴る。これはソロチェロの最初のテーマの完全な反行形(音程が上下逆)になっている。チェレスタの低音から、例によってd音だけが抜けた11音からなるビブラフォンに受け継がれる。
ティンパニがトロンボーンの葬送曲のリズムを思い出したあと、突然完全五度音程のファゴットが鳴って第3楽章にattaccaでつながっていく。
4.7 第2楽章の構造
第1楽章と違って第2楽章はほぼ縦割りの、部分々々に完全に分かれている。全体がどう並んでいるかを示すと となって、図中オレンジの四角は短三度(とその転回)並行移動テーマ、薄紫は12音(あるいは1、2音抜けた)が1回ずつ現れるフレーズ(四角の中下の数字は含まれる音程数)、緑は付点を含んだ葬送曲の部分である。12音の部分は調性がわかりにくい上に、ゆっくりとしていてはっきりとしたリズムがなく、とらえどころがないように聴こえるせいで、聴くだけでは構造が見えにくい。しかし12音が全部出そろうことで、区切りがついていて、他の部分もトゥッティを除いて、長くてせいぜい十数小節の塊(平均で8小節)が接する状態でつながっていることがわかる。
しかし12音と言っても音程の重複や抜けがあって、いわゆる「十二音技法」のようには徹底していない。その点は最後にもう一度見直す。
そして楽章全体は葬送風の部分を中間部にした三部形式っぽくなっている。主部が戻ってきたところで主題を反行させる(チェレスタの部分)のは、バルトークの「アーチ型」の形式に似てるけど、バルトークと違って主部の回帰は極端に圧縮されている。
ディテールの解析は別にして、全体の印象としては、第1楽章は生成と分解と合成が繰り返される知性が勝った音楽だったけど、第2楽章は孤独に深く思いこむような沈思黙考の音楽になっている。そのどちらももともとショスタコーヴィチの音楽の特徴で、それらがそれぞれ純粋な形で2つの楽章に昇華されている、と僕には聴こえる。
どちらも僕はすごく好きである。
2020-02-29 22:03
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