変調弦ギターによるバッハ-その9 [ギター - 変調弦によるバッハ編曲]
弦楽器の調弦法について思ったこと。
弦楽器を調弦法で5種類に分類してみよう。
1. 二度調弦楽器
2. 四度調弦楽器
3. 五度調弦楽器
4. オープン調弦楽器
5. 不規則調弦楽器
二度調弦楽器はハープに代表される弦数の多い楽器である。発音に両手が平等に参加するものが多い。ギターに代表される四度調弦楽器は弦と弦の音程間隔がだいたいどれも完全四度になっているもので、左手で音程を決め右手で発音する。バイオリンに代表される五度調弦楽器も弦間音程は五度になっているが手の不平等さでは同じ。
音程制御みたいな論理的な作業は左脳にやらせて、発音のような情緒に訴える作業は右脳にやらせた方がいいと思うけど逆になっている。これはたぶんその昔、右利きの人が左手で楽器を支え右手で鳴らしたのが起源で、その後になって音程を調整するようになったせいじゃないかと思う。ディズニーのアニメに「楽器の起源」だか「音楽の起源」と言う短編があって、その中で弦楽器は原始人が弓をびょよん、とはじくことから始まった、となっていた。
変調弦ギターによるバッハ-その8 [ギター - 変調弦によるバッハ編曲]
昨日のやつにちょっと詳細説明。
調弦は、3弦をg→fis(f#)に、6弦をE→Dに下げる。
記譜は実音のまま(スコルダトゥーラのために指使いを優先した記譜ではない)になってる。斜体の数字1、2、3、4は左手指の指定で、丸数字は弦の指定。
上に並んでいる「P?」は左手ポジション、「C?」はそのフレットでのセーハを表している。
変調弦ギターによるバッハ-その4 [ギター - 変調弦によるバッハ編曲]
さて、すでに30年前の話ではあるが、セルシェルのバッハ演奏を知ってしまった我々は、そのへんに山のように転がっていた乱暴なバッハ演奏に満足できるわけがない。フーガはフーガらしく多声部を独立させて弾きたいし、アルマンドに内省的な深みを与えたいし、サラバンドには係留音の豊富な重層的な和音を、ジーグには生き生きとしたリズムとビートを盛り込みたくなった。しかし経済的な問題(まともな6弦ギターが何台か買えるほど11弦ギターは高い)とコントラ弦の消音と言う別の技術的問題を抱えることからセルシェルのような11弦ギターを使用することはためらわれる。そこで一般的な6弦ギターを使ってこれまでの演奏よりもよりバッハらしい演奏をするにはどうするかを考えてみる必要がある。
そこでどうするか。
変調弦ギターによるバッハ-その3 [ギター - 変調弦によるバッハ編曲]
一般的なバッハ演奏の世界ではギターによるバッハはいわば「いろもの」だった、と僕は思う。フーガに聞こえないフーガ演奏、まったく意味が理解できない突然行われる音色変化、リズムを無視した見境の無いルパート、などなど、他の楽器によるバッハを聞き慣れた耳の肥えた鑑賞者にはまったく聴くに耐えない演奏があまりにもたくさん存在していた(現在でも大勢の状況はあまり変わっていない)。
変調弦ギターによるバッハ-その2 [ギター - 変調弦によるバッハ編曲]
J.S.バッハはリュートは弾けなかったようである。しかしバッハが死んだとき財産目録にリュートが1丁あった(リュートは銃やパンツと同じ助数詞)らしいし、弟子にリュートを教えていたと言う記録もあるようである。
変調弦ギターによるバッハ-その1 [ギター - 変調弦によるバッハ編曲]
LilypondがLeopardでうごかないままだけど、バッハのリュート独奏曲に関するメモを書き始めることにする。
今、バッハのリュート曲のギターへの編曲のアイデアを得て、そしてこれから具体的に楽譜としてまとめようと考えている。この編曲は運指上の技術的な問題を解決するため弦の調律を一般とは異なる方法に変更したギターのために行う。
バッハのリュート曲は多くのギタリストにとって、全ギター曲の中でも飛び抜けて重要なレパートリーとなってる。しかし技術的な問題の多さから一般のアマチュアギタリストには近寄りがたいのも事実である。まず編曲の背景から。
編曲の目的とその目標
現在バッハのリュート曲は本来のバロックリュートでよりも楽器として一般的なギターで多く弾かれている。ところが
- バロックリュートの調弦法がギターと異なる
- バッハ自身があまり演奏技術上の問題を重要視しなかった
- 曲によってはリュートチェンバロ用で、リュートを前提に作曲されていないと思われるものがある
等の理由により、お世辞にもギターで弾きやすいとは言えない。そこで一般的なギター編曲では声部の数を減らしたり、音荷を短くする等の妥協を許すか、アクロバティックなビルトゥオーソに依存するか、またその中間のどこかを目指すかをまず最初に設定することからはじめることになる。
バッハはいろいろな楽器に対して演奏技術的な問題を軽く見ていた(無伴奏ヴァイオリン曲を見るだけでも明らかである)がしかし、物理的に演奏不能な音符はただひとつとして残さなかった。音域をはみ出すことはなく(例えばマーラーはヴァイオリンのフレーズの途中に下のFの音を括弧を付けて書いた。出ないけど出すつもりで弾け、と言うことらしい)、クラビア曲では片手で9度を超えることはなく、やはりリュート曲ではひとつの弦で二音以上鳴らすことはない。従ってバロックリュート調弦と同じ調弦法の楽器ならば原理的には演奏可能である。
だが、物理的に演奏可能ということと、実際に音楽として表現することとは別問題である。古楽器が復元されて当時の技法が十分明らかになっている現在であってもバッハのリュート曲の演奏は簡単ではない。
僕の目標は変調弦をギターに採用することでバッハの意図を出来るだけ損なわずに技術的な問題を少しでも軽減することを目指す。これから楽器の機能上の問題とギターによるバッハ演奏の問題点をレビューする。最終的には変調弦を採用する妥当性とそれによる効果を考えて、実際に実装(運指をつけた楽譜を作る)したい。